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天の花  作者: 猫姫 花
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いつもの授業


 七章 エリック 編



 ルイカは目を覚まし、鳥のさえずりを聞いた。寝返りを打つと、窓から明るい光が差している。長椅子の方へと視線を流すと、そこにシドはいなかった。座卓の上に畳まれた毛布があるだけだ。

 ルイカは起き上がり、テーブルの上に書置きがあるのに気が付いた。紙の切れ端に、

  【おはよう。学校があるから帰るよ。

   起こすの悪からそのまま行く。クロトさんにディナーのお礼言っといて。

         そろそろ出席しろよ。単位足りないと留年だ。

   それとも学校一の色男に、成績ナンバー・ワンの座もくれるの?

                                シド】  

   ―とあった。


 ルイカは思わず微笑んで、目を細めた。

 階段を上る音がして、死角からクロトの頭が見えてくる。

 目が合って、クロトは意外そうな顔をした。


「おはよう。具合いは?」

「ええ。もう大丈夫。午後からは授業に出るわ」


 ***


 黒板には大量の文字が書かれていて、本草学のアンバー先生は片手に教科書を持ち、もう片方には教鞭を持っていた。この道三百年のベテラン教師の授業は人気が高く、教室はほぼ満員だ。

 彼女の穏やかな声はまるで歌っているようで、ルイカはこの授業が好きだ。すでに五歳の頃には知っていた内容を延々聞かされていても、全然苦にはならない。周りの生徒がそうしているように、自分も教科書とノートを広げ、黒板を見ている。


 アンバー先生は黒板の一番端に立ち、枝でできた教鞭で黒板の字を差した。少し遠くの文字を示すと、教鞭はピノキオの鼻のように伸びる。本草学授業の名物だ。


「いいですか。生物学の授業で皆さんは卵の観察を現在おこなっていますね。その中にマンドラゴラリスの種の卵が入っていることは、そろそろ皆さんお気づきかと思います。今日の授業の主題です。三年の授業で少し触れた所ですし、薬学をとっている生徒の皆さんには聞き覚えのある単語かと思います。これからも別の授業で触れる可能性の高い所ですから、今日の授業はよく聞いておいて下さいね。

 ではまず、皆さんがどれだけ授業内容を覚えているか試しましょうか。―マンドラゴラリスは何と何の掛け合わせによってできるものか・・・シド=イザナズミ君、分かりますか?」


 ルイカは教室の一番前、斜め右に視線を移した。シドの背中と、両隣に座っている親衛隊のメンバーを見つける。


「マンドラゴラと、リスリラリルリムです」

「よろしい。では・・・ホノカ=フロース君。マンドラゴラとリスリラリルリムとは、どんな植物ですか?」


 教室の真ん中、一番前の席に座っているホノカは言った。


「マンドラゴラは、土から引き抜くと悲鳴をあげる、人型の根っこです。悲鳴を聞いた者は死ぬと言われていますが、それはマンドラゴラのレベルによって異なります。根っこは万能薬の元です。

 リスリラリルリムは赤い種を持つ黒いあさがおのような植物で、月光で成長します。根は猛毒で、新芽は麻酔、硬い葉は解毒薬、花は消毒薬や染料になり、花粉は媚薬のもと、茎から滴る液体は沈痛と沈静効果があり、種は体力回復薬です。枯れるとその効果は半減し、もしくは無効になります」


「はい。よく勉強していますね。では、その横・・・キョボック=コーリー君。マンドラゴラリスはどのような植物で、またどのような効果を持つものですか」


 キョボックは視線を上げて少し考え、アンバーを見た。


「ホノカが言った効果を全て含んだ、人の頭からアサガオ生えたみたいな根っこで、ユーモラス。ちょっとかわいい。効果が高くて、あつかいを間違うと危険。枯れると効果は下がるけど、リスリラリルリム分の効果は期待できる。性別がないから、一度卵を産むと一日で枯れて・・・かわいそう」


 アンバーは数秒沈黙した。


「まぁ、いいでしょう・・・それでは・・・ロビニーア=コナー君。続きを」

「え―、僕?」


 ルイカは左隣を見た。

 ロビンは明きらかに困惑し、教科書を睨み読んでいる。


「え、っと・・・リスリムリヌ・・・リスリルリム?リスリムリラリム?とマンドラゴラを交配させると、白い卵が産まれて、その卵はだんだんと赤くなっていって、数十個の赤い種が取れるようになります。それを土の中で育てるとマンドラゴラリスがはえてきて、頭の先から黒い卵を一つ産みます。その卵を『マンドラゴラリム』と言って、それからは何も産まれません。日陰において置くと、二年ぐらい保存ができます」


「・・・まぁ、いいでしょう。それでロビン君、マンドラゴラリスは、何と何の掛け合わせでしたか」


「マンドラゴラと、リム・・・リスリルリルリム・・・?リルリムリスリム?リムリラリムリム・・・リムリムリラリス・・・リム―」


「もうよろしい・・・努力は認めましょう。しかし三年受けている授業なのですから、いいかげん言えるようになりましょうね」


 ロビンは机の上に腕を出し、拳を作って見せた。

「がんばります」 


 アンバーは少し呆れ顔で視線を外すと、教室を見渡した。一番後ろの席に座っている、ぽっちゃりした生徒と視線が合う。


「では、チャールズ=ロウ君」

「はいっ」

「マンドラゴラリスはどのぐらいの期間で卵から孵化し、またマンドラゴラリムを産めるようになるまでに、どのくらいの期間が必要になりますか?」

「はいっ」

 チャーリーはにっこりと笑った。

「全然、分かりませんっ」

「はい。素直でよろしいですね。減点っ」



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