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天の花  作者: 猫姫 花
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 ***


〝まぁ。背中色に染まっているわ・・・〟


 下界を見下ろす筈はないのに、彼は自分を見つめている。

 ルイカはシドの服から血が染み出ているのを見つけたが、正常な思考がだんだんと戻って来ると、それがバラの花びらだということに気が付いた。

 口を開き、声を出そうとする。

 しかしどうやって出すのか思い出している間に、吐息と共に意識が抜けていった。ゆっくりと視界がかすみ、瞼が閉じる。辺りが白く浄化され、闇が降りてきた。唯一残った空間に、二つの丸い空があった。


 スカイ・ブルー。   

 月?いいえ。死を呼ぶバラだわ。大きな、赤い・・・。

 ルイカはきっと、青い花だね。

 どうして?

 だってシドの背中の花は、真っ赤だから。それに『幸せの鳥』は、青いんでしょう?


「ルイカ・・・ルイカ・・・」


◇死を呼ぶと知りつつも虫は惑わされ、追い求める。

 しかし死を呼ぶバラを魅了するのは、唯一・・・天の花。


 天の花は〝ルイカ〟なのかしら?

 じゃあ伝説のシドも、僕と同じでルイカが好きなんだね。

 シドは私が好き?

 うん。好きだよ。ずっと一緒にいようね。

 ええ。ずっと・・・ずっと・・・

 ――あぁあ・・・知ってしまったね?何をしている?いい子は寝てる時間だよ。可哀想に。妙な呪いをかけられたようだな。一生ついてまわるぞ、それは・・・悪いが一緒には連れて行けないよ。いくらお前が私の娘でも、これ以上一族のシキタリを破ることはできない。何より、ホスファがそれを望んでいない。

 あなたは・・・私のパパなの?

    いいですね。あなたが何を覚えているのかは知りませんが、決して口外などなりませんよ。妙な考えはお止めなさい。罪人には罰を。多くを望めば、天罰が下りますよ。

 天罰を下すのは神様?それともクィーン・ビー?

 馬鹿なことを聞くものじゃありません。クィーン・ビーこそ神に等しいのです。あなたはまだ分からないでしょうけれど、いずれ分かるようになるでしょう。これは必要な―

 いいえ。いいえ。クィーン・ビー、私にはまだ分かりません。私には理解できないわ。

    大人しくしていれば、

        何れあなたが六角の椅子に座れるのですよ。

 そんなものいらないのに。

     何もかも、あなたの思いのままに・・・。

 私の?いいえ。あなたの―、でしょう?

   言うことを聞かないと、あの人形を捨てますよ。

 じゃあ私が、人形になればよかったの?

     ああっ、忌々しい・・・何故このようなことがっ・・・半分の呪印など、聞いたことが無い。もしやあの男が何か・・・

 取り引きをしましょう。お婆様。私とあなたと、協定を―。

   あなたは後天性コズリスの可能性が高い。呪いが解けても、死んでしまうかもしれない。今はどうか、このままで―・・・。

 私は呪いで死ぬの?寿命で死ぬの?

 一介の下僕でしかない私には、伺い知れぬことです。しかしあなたがコズリスであるなら、呪いを解かない方が長く生きられるかもしれない。今はどうか・・・耐えて下さい。

   ルイカ・・・大丈夫?どこか痛いの?

 シド・・・怖いわ。 

 怖い?大丈夫。僕が側にいてあげるよ。  

 ああ、これはきっと、天罰なんだわ。

 『お前は知りすぎた』。

 もしくは『運が悪かった』って言われて、ピストルで額をズドン。

◇大きな赤いバラが現われれば、そこは火の海と化し― 

 でも。◇死を呼ぶと知りつつも虫は、

 しかたないじゃない。どうしても欲しいのだもの・・・◇惑わされ、追い求める?

 だって私にとって、『死を呼ぶバラ』が『ルイカ』なんだもの。

   多くを望む者には、天罰が下りますよ。

 それでもいいわ・・・だって私に天罰が下る時は、あなたにも下るのだもの。呪印は半分。私を殺せば、あなたも死ぬわ。

◇まるで背中色に染まるように、花びらを散らすこととなる。

 

 *** 


「本当に医者に見せなくても大丈夫なの?」


 クロトが心配そうに言うと、ルイカを抱えたシドは頷いた。


「脈がある。息もしてる・・・まだ、お迎えの時じゃない」


 シドはルイカをベッドに寝かせ、濡れた髪に触れた。

 クロトがタオルを持って来ると、シドは丁寧にルイカの顔や髪を拭いた。

 背中の辺りにクロトの視線を感じて、シドは口を開いた。


「俺は一時間、全速力で空を飛んで来た。ルイカが人間の男と一緒にいると分かって、あなたに嫉妬してたし、ルイカに興味を持つんじゃないかと少し疑ってた・・・ルイカの行動がアポロリックの家に知れることも恐れたし、学校の成績やら在籍の心配もしたし、ルイカの精神状態を思えば、一時間はとっても長かった・・・」


 シドはルイカの手を握り、祈るように顔を埋める。


「でも。俺が一番心配してたのは、ルイカの体のことだ・・・」

「心臓に、なにか欠陥が?」

 

 シドはかぶりを振る。


「でも、似たようなものだ・・・最近大きな発作を起こして、倒れたばかりだった・・・体力的な無理はもちろんいけないし、精神に大きな影響を与えるような、急激な環境変化も望ましくないと言われていたんだ・・・それなのに・・・」


「これ以上ないぐらい、環境が変ったから?」


「環境じゃなくて、事態が変ったんだ・・・ただでさえルイカは、色んなものを背負っているのに・・・今回のことだって、自分ひとりで決めて・・・自分勝手に――責任だって、自分一人でとるつもりなんだ・・・俺に少しも、分けてははくれないっ・・・いつもそうだ。いつも。いつも―・・・」


 シドはそう言って拳を握り締めると、暫し喋らなくなった。


 〝私には悠長にしている時間なんてないわ〟


 あれは、そういう意味だったんだろうか、とクロトは思った。


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