帰り道
「甥っ子さんは、今何歳?」
「確か、十一か、十二か、十三か―・・・十四だったかな?」
「十一と十四は、かなりの差があると思うけど?」
「そうかな?」
「子供と大人の三歳違いは、全然違うわ」
「そう言えば・・・そんな気も・・・」
「クロトさんって、几帳面なのに抜けてるのね」
「はは・・・」
クロトは苦笑しながら頬をかいた。
ルイカは上目遣いでクロトを見た。
「だからなの?」
「うん?」
「私の見た目は、人間の十二か、十三ぐらいだわ。だからあなたは、私に親切にしてくれたの?」
クロトは暫く沈黙して、前を向きながら小さく頷いた。
「少なからず、そういう所もあったのかもしれないな・・・」
ルイカは頷いた。
「良かった。安心したわ」
クロトは意外そうな顔をした。
「安心?何故?」
「メリットなしに、他人にあそこまで寛容な人間は見たことなかったもの。我が家は殺伐とした親戚関係だから、その甥っ子君が羨ましいわ」
クロトは微笑した。
「こんな、変ったオジでも?」
「ええ」
ルイカも微笑した。
「羨ましいわ」
***
シドは『開放された庭』の管理人室の前、壊れた天使の側でホウキに乗って浮いていた。器用にホウキの上に横たわり、そのままの姿勢でぼうっと空を見上げている。天使像を見ると、はぁ、と溜息を吐いた。
「そりゃあこんな暇だったら、お前も空に帰りたいよなぁ」
シドは割れた頭を撫でてやり、起き上がった。
「散歩でもするか・・・じゃあな、ソラエル」
***
心臓がばくばくと鳴っていた。茶色い髪の男がドアを開け、緩やかな巻き毛の少女が家の中へと入って行く。買物袋を抱いている男が後ろ手にドアノブを引き寄せると、チョコレート色のドアが閉まった。
やはり。やはりやはり、魔女だったのだっ。あの黒ずくめの少女は空を飛んでいたっ。これ以上の証拠があろうか?彼女は魔女だ。悪魔と契約した魔女なのだ。魔女を倒さなければ。神にそむく存在は、全て抹消せねばならない。報告を。さぁ、早くっ。神に報告しなければっ。
サンズが黒光りする車を出発させた頃、ちょうどその上空を、対向車線のようにシドが飛んでいたことなど、サンズは気づかない。
***
シドは鼻歌を歌いながらホウキを進めた。
***
紙袋から品物を出していたクロトは、テーブルの上にタマネギを置く手を止めた。ルイカが脱いだコートの中から、鮮やかな赤いワンピースが見えたからだ。
「黒以外をはじめて見た。似合うね」
「ああ・・・ちょっとした変装、って所かしら」
「変装?」
ルイカは微笑した。
「秘密」
「秘密ならそれでもいいけど・・・時々は黒以外も着たら?せっかく若くて可愛いんだから、ピンクとか黄色とか―」
「ピンクに黄色?落ち着かな過ぎて、心臓破裂しちゃうわ・・・」
「黒が好きなの?」
「好き、というか―自覚していられるから、戒めみたいなものなの」
「戒め?」
「『黒』は魔女っぽいでしょ?魔女であることをいつでも自覚するために、黒を着るの。それに普段の黒い服が喪服にならないための―・・・」
ルイカは言いよどみ、かぶりを振る。
「いいえ。いつでもお葬式ができるように―だったのかもしれないわ・・・」
クロトは数秒沈黙した。
「それは、誰のお葬式・・・?」
「私のよ」
ルイカは淡々と、切り捨てるように言った。
「それに、クィーン・ビーのね」




