迷子
***
ロビンは胸を押えて深呼吸をして、自分がフードを被っているのを再確認した。小さな家のガラス窓に近付き、恐る恐る中を覗き込む。
誰もいない。きっと留守なのだろう。
ほっとしたような残念だったような気分でいると、幼い女の子の笑い声が近くでして、ロビンはうしろを振り向いた。小走りに先頭をきっているのはロビエル。買物袋を持っているメガネの男と、その隣を歩いている細身の女が、ロビンの両親だ。
「ロビエル、そんなに急ぐと転ぶぞ」
ロビンは自分の姿が見えないのを知っていながら、近くのレンガ花壇の影に隠れた。垣根の隙間からロビエルがちょこまかと遊んでいるのが見え、ロビンは密かに淡く、口元を上げた。
***
『ガイウス』二号店から出てきたルイカは呟いた。
「前途多難ね・・・」
一時間近くかけて訪ねた二号店の店員も、よく分からないと言う。しかも事情を知っていそうな店員は、欠員補助のために一号店に行っているそうだ。客入り時間だったので、明ら様に邪険に扱われてしまった。
ルイカは右手を握って唱える。
「イサダルーク・クロック」
右手の中に小さな懐中時計が現われると、蓋を開いた。
人間界ではエメラルドと呼ばれているシェズン、真珠をガラスで包んだようなイロトア、ルビーことディレンディラントスが一つずつ埋め込まれた文字盤は、一時二十四分を指していた。
この時計はプレゼントで、宝石の頭文字は送り主の名前、『シド』を表している。
ルイカは少し考え、眉間を寄せる。
二時間ほど待つか、二時間かけてイビファルの一号店を探すかを悩む。
ルイカは後者を選択した。
「今日中に潰れることはなさそうだものね・・・」
二号店を見てルイカは呟き、来た道を戻り始めた。
***
「あ~、そうだ。夕飯どうするんだろう・・・?」
クロトは椅子から立ち上がると、ベッドに投げ出した手紙を見つけた。手にとって宛て先を見てから、扇ぐようにして頬を叩いた。
「うぅぅん・・・」
保管室を通ってルイカの使っている部屋に入ると、カゴの前でしゃがみ込む。クロトは長椅子に置かれた空の鞄を見て、卵を見つめた。
「少しなら、いいかなぁ・・・」
***
「この家かな?」
シドはある家の上空で止まり、ゆっくりと下降。何も育てていない半円の花壇に近付き、慎重に二階の窓を覗き込む。
「留守か・・・」
シドがそう呟いた時、クロトは玄関の鍵を閉めていた。『アマンダ』の方向へと歩き始める。
シドは空中に上昇すると、隣の家を見るために体の向きを反転させた。
「うぅん・・・違うっぽい・・・」
右に振り向けばクロトが歩いているのが見えたが、シドは左に振り向いて『開放された庭』を見つけた。全く正反対の方向へ進み、シドはクロトの家から離れた。




