シドとナーズ
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「えぇっ?何だよそれっ。人間と同棲っ?」
ドン、とテーブルを叩くと、端に置いていた布切れが落ちた。
「同棲じゃなくて、同居だと思うけど・・・」
「どっちでも同じだよっ。偶然偶々、ルイカみたいに平べったい体の少女が好きな奴だったらどうするんだよっ?えっ?」
「私に当たらないでよ・・・もしそうだとしても、ルイカだったら体術でも毒針でも好きな方法で返り討ちにするでしょう」
肩で息をしていたシドは、息を整えて金髪をかき上げた。一際大きな溜息を吐く。
「ごめん・・・」
カタカタと絶え間ない音がして、近くでミシンが動いている。かなり高い踏み台に立って、二人の小人がドレスを縫っていた。物凄い速さで純白の布が形を成していく。
ナーズは髪留めをとり、首を振って長い銀髪を解いた。滑るように艶やかな髪が、腰の辺りまで落ちる。部屋の角に立っている鳥カゴの蓋を開け、中に入っている大輪八重咲きの、薄紫の花びらに触れた。
「で―、どうするの?」
「もちろん様子を見に行くさ。住所は?聞いてるんでしょ?」
ナーズは白やピンクや黄緑色の花に、鳥のエサに似ている『水の種』を振りかけてやり、花びらに露が浮き出すのを見て、カゴの蓋を閉めた。いつの間にか折り畳まれたメモが指の間に挟まっていて、ナーズはそれをシドに差し出す。
「興奮して、相手殺しちゃだめよ?」
「大丈夫。もしやらかしても、後片付けは上手くやるから」
ナーズは深い溜息を吐いた。
「口が減らないんだから・・・」
ふふ、と笑って、シドはメモを開いた。斜めがけの鞄が僅かに震えだし、片手でそれをあやす。
「イビファルか・・・空飛んでも一時間以上かかるな・・・」
「それ、だいぶ成長してきてるわね」
六ヶ月の母体のように膨れた鞄を見て、シドは口元を上げる。
「本格的にサラマントイかカーバンクルに絞られているけど―・・・なぁ、お前達には同族を見分ける力とかないのか?」
シドが作業中のサラマントイに聞くと、同時にミシンの音が途切れた。ハンチングの格好をした黒髪の方がツノグで、茶色のベストスーツを着ている茶髪が、クグイだ。二人とも人間でいう四歳ぐらいにしか見えないので、普通の人間が見ると、労働基準法をおもいっきり無視したムゴイ店に見えるだろうが、二人はシドよりも年上で、二十歳を越えている。
ツノグは目を細め、鞄を見た。
「そんな匂いが・・・するような・・・しないような・・・」
「どっちだよ」
クグイはツノグと同じく、高くて幼い声で言った。
「似た匂いは・・・します」
「確かか?」
二人はゆっくりと、無表情で首を傾げた。
「もう、いいや」
二人は頷くと、すぐにミシンを動かし始める。サラマントイは主人の命令には従順なのだが、あまり頭がよくない。今はドレスを完成させることで頭がいっぱいのようだ。
「このこと、ロビンは知ってるのかしら?」
ナーズがそう言うと、シドは眉間を寄せた。ナーズの方にふり向くと、目を細めて声色を作る。
「気になる?」
シドの口調が気に入らず、ナーズは眉間を寄せた。
「気になってるのは、あなたの方じゃなくって?」
シドはそっぽを向いた。
「姉さん、太ったよね」
「余計なお世話よ。私に当るなら早く帰りなさいな。愛しの誰かさんに会えば、気も静まるでしょ」
「言われなくてもそうするよっ。じゃあね」
「看板直しといてよ」
シドは踵を返し、黒革のコートについたフードを被りながら、軽快に階段を上がった。薄暗い地下室から店内へと出ると、ドレスや小物達を横切って、緑色のドアを開けた。
「イスカケム」
カランコロンとベルが鳴り、すぐに閉まった。ドアにぶら下がっている【クローズ】の板をひっくり返して【オープン】にすると、『N』の看板に向って、犬が威嚇するように顔で顰めてみせた。
「イサダルーク・キャタ」
右手に現われたホウキに飛び乗り、、シドはすぐに空中に飛び出した。




