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天の花  作者: 猫姫 花
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手紙


 ***


 翌日の午前中、ルイカは卵の様子を確認してから、クロトの部屋へと向う。クロトの右手に巻いた包帯を取り、火傷の様子を見た。


「良好ね。今日中には治るけど、それまでは巻いててね」

「分かった。ありがとう」

「今日も卵のことお願いしていいかしら?正式にこっちにいれるようになったから、遠出したいの」


 それでブラックコートを着ているのか、とクロトは思った。


「遠出って?」

「隣町」

「トゥルカバース?アシャパト?」

「アシャパトよ。そこに二番目の姉さんの手がかりがあるかもしれないから、訪ねてみようと思って」 


 ルイカはホウキに乗って宙に浮き、部屋の窓から手を振っているクロトに手を振り返した。天を仰ぎ真剣な顔になると、ホウキはロケット花火のように急上昇をする。青空を切り裂いて雲が近くなると、ルイカはスピードを落とした。

 地図を確認してから、足の下にある屋根の群れを見つめる。『開放された庭』の方向が、隣町アシャパトだ。ルイカはポシェットに地図をしまい、出発した。


***


「何だ、今のはっ・・・」


 サンズはクロトの家から、急速に上っていく黒い影を見た。それは暫くすると北の方向へ飛んで行き、すぐに見えなくなる。

 サンズは焦った。

 魔女が空を飛んだ。

 尾行しなければいけないが、あまりに急なことだったので見失ってしまった。急いで車へと乗り込んだが、しばらく北の方へ走らせてみても、結局魔女に追いつくことはできなかった。


 ***


 ルイカは尾行されていないことを時折確認しながら、一時間を費やしてアシャパトの二丁目に飛来した。人目につかなさそうな建物と建物の間に降下し、ゆっくりと周りの様子を見る。右は茶色のレンガ壁に、緑の枠の窓。左は灰色のレンガに、白い枠の窓の建物だった。

 道には誰もおらず、ルイカは安心して降り立つ。そこでコートを脱ぐと、ホウキと一緒に指輪の中に片付けた。服のシワを伸ばすと、少し眉間を寄せ、体をねじってみる。


「落ち着かないわ・・・」


 ルイカは赤いワンピースを気にしながら、通りへと出た。

 だてメガネをかける。

 ポシェットの中から手紙の封筒を取り出し、差出人の名前を見つめる。

 

 ◇ アシャパト町 レストラン『ガイウス』

       From エリザベス=フィナトワース    


 ルイカはしばし視線を落としたまま、立ち尽くした。

「・・・リズ・・・」

 

 ***


「あ」

 クロトは緑色の絵の具がついた筆を置き、ローテーブルの引き出しを開けた。中から白い封筒を取り出すと呟く。

「忘れてた・・・」

 差出人の名前を見つめ、斜め向かいのルイカの部屋を見る。クロトは頭をかいた。

「まぁ、いいか」


 ***


 『ガイウス』の看板をルイカは見上げる。お洒落な外観だった。

 淡い光の店内に入り、ルイカは案内された席に座る。

 タキシードに黒い腰エプロンのウエイターに注文をすると、海鮮サラダ、旬の季節野菜のリゾット・ホタテ添えと、三種類の白身魚のソテー、白いコンソメスープ雲の涙風味と、四種のスプーンデザートが出て来た。


 ルイカはナフキンで口を拭き、水を飲む。暫し沈黙したあと、ウエイターを呼ぶと、腰をかがめ、聞かれた。


「何でしょう」


 どうやら金持ちの幼子だと思われているらしいが、ルイカは気にしないことにする。


「フィナトワース、という名前の店員はいますか」

「フィナ・・・?・・・少しお待ちいただけますか」


 ウエイターが戻って来ると、彼の困った顔を見て、外れだとが分かった。


「すいません。この店にそのような名前の店員はおりません」

「四年ぐらい前から働いている人はいますか」

「四年、ですか・・・この店は先々月に開店二周年を迎えたばかりなので、四年働いている、ということは―・・・あ。それでしたら、一号店か二号店かな?そちらは八周年と六周年を迎えておりますので、いるのだとしたら、そちらじゃないかなぁ・・・」


「そのお店はアシャパトに?」

「はい。一号店はイビファルですが、二号店でしたらアシャパトの―・・・どちらかと言うと、隣町に近いかな?必要でしたら、パンフレットをお持ちしましょうか」

「ええ。ありがとう」

 

 ルイカはなるべく幼い口調で言って、極力の笑顔を作った。

 利用できるものが増えて、良かったわと思う。


 しかし喜怒哀楽が顔の表に出るたびに、ルイカは複雑な気分に襲われるのだった。

 金を払って店先に出ると、ルイカは空の明るさに眩暈を感じた。よろめいた瞬間に目の前が白くなり、立ち直ると音と映像が戻って来る。胸を押えた。どくどくと血潮の音が頭の中でして、それがだんだんと引いていく。

 青白い顔が、溜息を吐いた。


「・・・時間がない・・・」

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