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天の花  作者: 猫姫 花
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オーケストラリーフ


 ***


「じゃあな、イオ」

「ああ。お前はどうするんだ?」

「今日は姉さんの家に泊まって、明日学校に帰るよ」

「そう。じゃあ明日な、シド」


 ミカゼナの路地裏。薄暗い建物の間に、シドは手を振った。中指に付けた黒い石の指輪がよく似合う。アトリムグラスの友人の気配が消えると、シドは溜息を吐いた。


「ああぁ、また暇になったな・・・」


 突然強い風が吹くと、スカイブルーの瞳が細くなった。金髪をかき上げる。


「一緒に戻ればよかったかなぁ・・・?」


 ***


 ロビンはいっきに紅茶を飲み干すと、おかわり、と言ってカップをルイカに渡した。


「ロビン。何度も言うけど、紅茶はじっくり楽しむものよ」

「ルイカ。何度も何度も言うけど、僕に言ってもムダだよ」


 ルイカは大きく溜息を吐くと、紅茶を注ぐ。またも小袋に手を入れると、今度は乾燥したシダのような葉をロビンに渡した。ロビンは手の平でパン、とその葉を叩いた。


「それは?」

「不思議なお茶、パート・ツー」


 白いカップの中に小さなシダ型の葉を浮べると、お茶というより野菜スープに見えた。

 ロビンは軽くカップを回すと、それをクロトに差し出した。


「飲んでみて」


 クロトは恐る恐る受け取り、見た目には何も変わっていないお茶を一口飲んでみた。


「オーケストラ・リーフティーよ」


 ルイカが言った。

 なるほど、とクロトは思った。一口飲んだだけなのに、口の中で味の濃淡が波打つように変ってゆく。味が色んな所に反響して、舌の上で演奏会がおこっている感じだ。


「面白いな」

「じゃあクロトさんのにも淹れてあげる。これはどんなお茶にも有効だから」

 砂糖が入っている分、さきほどとは味が違っていた。


〝なんて魅力的な所なんだアトリムグ!ますます行ってみたいっ〟


 ルイカはふ、と微笑した。

「クロトさんって、子供みたいね」

「えっ?」


 クロトはルイカを見た。どうやら顔に出ていたらしい。


「う・・・いや・・・」


 まさか十歳以上も年下からそんな言葉をもらうとは思いもしなかったので、クロトは照れ、困惑した。


 ずるずると音を立てて茶を啜っていたロビン。

 突然話を変えるのが、彼の癖らしい。


「そう言えば、ビルシャの卵もカーバンクルかサラマントイらしいよ」


 ルイカの対応は慣れたものだった。


「あら、そうなの?今実家に帰ってるんじゃなかった?」


 ロビンは新しくお茶を淹れ始めたルイカに頷いた。


「キムリの所に手紙来てた。キムリも近いうち帰るらしい」

「キムリの卵は、たしか双頭か三つ足カラスの卵・・・大丈夫かしら・・・キムリって変なところ抜けてるから・・・」


 透明なポットの中に、ルイカ特別ブレンドの茶葉が入る。

 ロビンはクロトを見る。


「僕達今、卵育ててるんだ」

 彼なりに気を使っているらしい。

「それは聞いてるよ」


「ビルシャとキムリはルイカの友達で、特別待遇室の常連。だいたい、上から五番目ぐらいに入ってる。ビルシャはいつも男装してる長身で、キムリとは幼馴染。キムリは赤い髪のサソリっぽい子で、虚弱体質。家が近所だから、二人は仲がいいの」


「サソリ、っぽい?」

「三つ編み髪がサソリのシッポみたいなんだ。それに毒舌」


 ふふ、とルイカが笑った。


「キムリとは、とっても遠い親戚になの。東から西に移ってくる間に枝分かれして、今では散らばって核家族化してるけど、数百年前はけっこうな家柄だったそうよ」


「あ」

 ロビンが言う。

「キョボックとホノカはマンドラゴラリスの種の卵だって。殻が赤くなりはじめてた。チャーリーは・・・あ。イオもカラスの卵っぽい。今出てるけど、近いうち帰るって」


「イオの家は、サーカス団じゃなかった?」

「何とか連絡取ったんじゃない?」


 ルイカはポットの中に湯を差す。

 ロビンはクロトを見た。


「キョボックは羊飼いの息子で、無口。ホノカは学年の中で一番小さくて、多感期特有のトゲトゲ期間中。チャーリーは、歌って踊れていつも笑ってるぽっちゃり系。イオはアトリムグラスで、まだ男になるか女になるか悩んでる」  


 ロビンは言い終わると、ルイカに向き直った。


「ミスター・ユリユルネスから飴玉貰った。食べる?」

「いいえ。いらないわ」


「じゃあクロムさんにあげる」

「ロビン、クロトさんよ」


 ロビンはズボンのポケットから飴玉を二つを取り出した。テーブルに置く。


「君は食べないの?」

「僕は棒飴専門だから」


 クロトは内心首を傾げながら、「ありがとう」と言った。

 ロビンは頷く。


「ミスター・ユリユルネスは校長のペットのオラウータン。校長は動物好きで、変なペットをたくさん飼ってる。毎年増えてるって噂だけど、本当かどうかは分からない。ユリユルネスはその中でも長命で、十年か二十年ぐらい飼われてるんだって。僕らの言葉が何となく分かるみたいで、気に入った子には食べ物あげたがる」


「君はお気に入りなの?」

「そう。何故か僕とルイカは好かれてる」


 またロビンは、ルイカに向き直った。


「あとはぁ・・・新入生の話しかなぁ・・・誰だっけ。あれ―」


 天井を向いて考えているロビンをよそに、ルイカは言う。


「ロビンの話しは、いつもとり止めが無いの。気にしないでね」


 ロビンは聞こえていたのか、いないのか、話を続ける。


「あぁ・・・うん。あと、少し話題になってる新入生がいる」

「どんな?」

「何百年前だか分かんないけど、イギリリスで有名な魔法使いの、ロー・ティーン時代に似てるのが入ったって」


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