レモンオニオン
カップに注がれたのは、怖いぐらいに緑色をしたお茶だった。しかも何もしていないのに、ミルクを入れたみたいに濁っている。クロトは少し、気が引けた。
「魔法みたいな、不思議な現象」
ロビンが言うと、ルイカが頷く。小さな袋の中からビー球ぐらいの極小タマネギを取り出すと、その先っぽを指で摘んだ。
「これは柑橘系タマネギ。俗称、『レモンオニオン』」
ロビンが人差し指を立てると、その指が燃え出した。
目を見開くクロト。
「ノープロブレム」
ロビンはそのままタマネギを数秒あぶると、ふ、と息を吹きかけて火を消した。
ルイカは柔らかくなった液体状の中身を、指で割って押し出した。三人分のカップにその液体が垂らされると、カップの中身はたちまちに渦を巻き始める。
「よく見ててね?これは目で楽しむお茶なの」
すぐに、渦の内側から変化がはじまった。不透明な抹茶色の液体から琥珀色の渦が螺旋を描いて、あっと言う間に緑色を飲み込んでいく。気が付けば、カップの中身はルビー色になっていた。
「わぁ・・・すごいな・・・」
「お砂糖はご自由に」
プレーンのまま飲んでみると、アッサムティーに似た味がした。レモンと名の付く液体を入れたはずなのに、なぜかリンゴの香りが仄かにしたことに、クロトはしばし感動。
クロトは二つ、ロビン二つ、ルイカは一つ角砂糖を入れた。
「そう言えばロビン、『イロディム』って言葉聞いたこと無い?」
「イロディム?ああ―、なつかしい響きだな」
クロトとルイカは瞬いた。
「知ってるの?どういう意味?」
「人間界側から見た、アトリムグのことだよ。『神秘の地』『不思議な場所』『おそれるべき世界』―そんな感じの意味だったと思うけど・・・どうして?」
「これでクロトさんの、魔法使い血筋説がますます濃くなったわ」
「それは・・・良いこと?」とロビン。
「神秘の地、不思議な場所か・・・先人のセンスは素晴らしい」
クロトは、感動しながらそう呟いた。
ルイカはクロトの顔を見ながら、少し心配そうな声で言う。
「今の段階ではどうとも言えないわ・・・」
数秒後、クロトは首を傾げた。
「アトリムグでは、こちらと殆ど変らない言葉を使うんだよね?」
「そうよ。それが何か?」
「なら、魔女はウィッチ。男はウィザード。総称はウィザッチだ。どうしてアトリムグでは『ウィタジィ』なの?」
ルイカとロビンは意外そうな顔をした。
「中々鋭いね、フロドさん」
「ロビン、クロトさんよ」
「失礼。クロトさん・・・僕達にウィザッチと言っても通用はするけれど、一般的ではないんだって。ウィザッチは男と女の魔法使いを総称する言葉。ウィタジィは、魔法使い全体を指すんだ」
「その二つはどう違うの?世の中には男と女しかいないだろう?」
「アトリムグでは―人間にも少しだけど、男でも女でもない、もしくは両方でもある『第三の性』という者がいる。アトリムグではそういう種が生まれやすくて、狭間に位置する者って言う意味の、『アトリムグラス』。フタナリという意味の、『アトリメデューナ』がいるんだ。それらの性を含めた魔法使いの総称が、ウィタジィ」
「へぇぇぇ・・・寮の組み分けは第三性用なの?」
「入学試験の時に精神分析があって、男女に別けられる。そこでどちらでもないと判断されると、アトリムグラスは女子用の特別待遇室、アトリメデューナは男子用に行くことが多い。特別待遇室は、総合成績が上位十名ぐらい、もしくは何らかの集団生活不適応の理由がある者に与えられる部屋のこと」
ルイカは拍手した。
「すごいわロビン。あなたがちゃんと説明してるの、久しぶりに聞いたわっ」
ロビンは両手を絡めて拳を作り、振る。
「ありがとう。勉強したかいがあった」
「したの?あなたが?」
「生物学は結構好き」
「アトリムグの学校は、人間界と同じ風なの?」
ルイカはきょとん、とした顔で首を傾げた。ロビンを見る。
「人間界の学校、まともに出てないからなぁ・・・でも―古城の学校なんて聞いたことないし、ペット持ち込んでいいなんてのも聞かないし、校長の年齢が日ごとに変ったりは普通じゃないと思うよ」
クロトは破顔した。
「年齢が変るって?」
「ああ・・・それはアトリムグでも特殊体質よ。うちの校長はDRKの二代目なんだけれど、教育学会で変人あつかいされてるらしいわ。おかしな校則つくる割りに、将来有望な魔法使い出すから下手に文句が言えないんですって」
「それで・・・年齢が変るの?」
「そう。時々ね」
「年齢が」
「ええ」
「年齢が?」
「ええ」
「・・・年齢が?」
「ちょっとしつこいわ」




