「魔女」と言う定義
「何って何だい」
「その定義は?」
「定義?・・・うぅん・・・魔法を使えること?」
「つまり、あなたは超能力を信じると?」
「超能力?さっきのあれって、超能力なの?」
「正確には違うわ・・・でも、そういうことを不思議には思わないってことでしょう?」
「不思議だとは思うけど、存在して悪いものだとは思ってないよ」
「・・・本当に?」
僕はもう一度肩を竦めた。
彼女は僕の目をじっと見つめる。眼球を通り越して、僕の脳みそまで見透かせそうな瞳だ。信用してなさそうな声で、彼女は言った。
「分かった・・・あなたを信じるわ」
「そう。良かった」
「今の出来事、黙っててくれる?」
「誰に言うっていうんだい」
「新聞社とか・・・そうでなくとも、友人、知人、家族とか・・・」
「ホウキに乗った女の子が空から落ちてきた―って?」
僕は思わず笑った。
「そんなの誰が信じるんだい?いい笑いものか、最悪病院行きだ。それに君の態度をお見受けするところ、姿を見られるのは余程マズイようだ。こういう状況に出くわした数奇な運命の人物は、周りに事情を話してはいけないものだ。でなけりゃ強面のブラックスーツが現われて、『お前は知りすぎた』。もしくは『運が悪かった』って言われて、ピストルで額をズドン・・・僕はそういう死に方はしたくないからね」
彼女は冷たく言った。
「映画の観過ぎか、小説の読みすぎよ」
「じゃあ僕を、無事に帰してくれるの?」
「あなたが魔法使い否定派でなくて、詮索好きでないのなら」
「君に興味はあるけど、害を与えるつもりはないよ」
「興味?」
彼女が怖い顔で眉間を寄せたので、僕は苦笑する。
「失礼。興味と言っても、別におかしな意味ではないから。魔法使いという実体に、という意味だよ。君達魔法使いの存在は知っていたけど、存在を信じていたわけではなかったから・・・」
「知っていたけど、信じてなかった?」
「うん。まぁ・・・いや。信じたかった・・・信じてみたかった、と言った方が正しいかな?僕は小さい頃に、自分の事を『魔女』だと名乗る人物とよく会っていた」
彼女は瞬いた。
少し興味を持ったらしいので、僕は話を続ける。
「そのひとは白髪で、顔に深いシワがある老婆だった。小さくて可愛らしかったよ。編み物をするのが好きで・・・いつも不思議な話を聞かせてくれる、優しいひとだった」
「それはこちら・・・人間界の話?」
「ああ」
「そのひとの名前は?」
「イヴァース・ニロー。僕の祖母だ」
彼女は目を見開いた。
「祖母?じゃああなた、魔法使いの血筋なのねっ?」
「本当かどうかは分からないけど、そう言われて育った」
「さっきは違うって言ったじゃない」
「本物の血筋だとしても、半分ではないだろう?」
彼女は眉間を寄せた。
からかわれた、と思ったのだろう。
別にそんなつもりはなかったのだが・・・。
「あー、あの・・・ごめんね?」
「おかしなひとね・・・どうしてあやまるの」
「いや・・・何となく・・・」
彼女は顔を上げ、僕の顔を見て大きな溜息を吐いた。
また頭を抱え、俯く。
「あなたのお婆さまはご健在?」
「僕が十八の時に亡くなったよ」
「じゃあ、ご両親のどちらかが魔法使いなの?」
「別に。どちらも普通の人間だ・・・少なくとも僕はそう思ってたよ。魔法を使っているところなんて見たことなかったし」
「今からご両親に会えないかしら。できれば、あなたが本物か確かめて・・・いえ。絶対に確かめないといけないの」
「それは無理だ。母は僕が十一の時に病気で亡くなっているし、父とは数回しか会ったことがない。放浪癖があって、一番最近会ったのが祖母が亡くなった葬式の時だし、現在は行方不明だ」
「『魔女と名乗る祖母』っていうのは、父方母方どっち?」
「父方だ。母の母は、僕が生まれる前に亡くなっている。母が死んでからは、父方の祖母が引き取ってくれた」
「じゃあ・・・・・・今は天涯孤独?」
「まぁね。そういうことになってる」
「何か血筋を示す証拠は」
「ないな。引っ越した時に大体のものは処分したし・・・」
彼女はさらに深刻そうに溜息を吐いた。
「天罰かしら・・・」
「え?」
「いいえ。何でもないわ・・・」




