蜜蜂の姫
四章 お茶会 編
二階へルイカが上がって来た。椅子に座って読書していたクロトは、ベッドへ腰掛けたルイカから、学校でのいきさつを聞くことになった。
「とりあえず会議を開いて、処罰はそれからですって」
「・・・そう・・・」
クロトが申し訳なさそうに言うので、ルイカは微笑した。
「むしろすっきりしたわ。退学なら退学で、私にも踏ん切りが付くから」
「踏ん切り、って?」
「一人立ちのよ」
クロトは瞬いた。
「それってつまり、独立して家を出るってこと?」
「そう。うちの学校は一流校だから、そこから退学になっても受け入れてくれる学校はある筈。でも実家の考え方からすると、それは許されないの。私は常に一番でなくてはならないし、それが当たり前なの。それが二流、三流の学校では意味が無いのよ。クィーンが欲しいのは、自分の手駒になる優秀なプリンセスだもの」
「・・・女王?」
「そう。クィーン・ビー・・・」
ルイカは目を瞑ると、枕のある方向へ倒れた。反動でベッドが揺れ、ギシギシと軋む。
「私はまだプリンセス。クィーンになるには時間が必要なの・・・でも私には、悠長にしている時間なんてないわ・・・富や名誉や権力なんて欲しいとは思わない。でも、私が欲しいものを手に入れるには、それら全てが必要なの・・・逃げればいいのに、逃げられない。蜂の巣から離れてるのに、私はまだクィーンの手の中・・・私のクマさんはお願いしたら一緒に戦ってくれるだろうけど、甘い蜜を狙っていると思われたクマは、働きバチのお仕置きよりも酷いめに遭わされてしまうの・・・」
ルイカは眉間を寄せた。
「それなら一生、『天の花』でいい。伝説の彼みたいに、背中色に染まるような戦いには巻き込みたくはないの。毒針でクィーンと心中してみても、新たなクィーンが雄バチをまとめるだけ・・・それでは何も変わらないわ。六角形の玉座が欲しいのなら、誰にだって譲る。でも、蜂の巣を丸くするには、六角形が必要なの・・・私が変えなきゃ・・・クィーンになって、『ルイカ』を手に入れたいから・・・」
クロトは数秒の間、沈黙した。
「・・・自分を?」
「自分も。『ルイカ』も」
ルイカは枕を握り締めた。
「でも、本当は・・・私がクィーンになる必要なんてないのかもしれない。平穏が欲しいなら、今すぐに蜂の巣を出るべきなのよ。遠くに。シドとコリンを連れて、ひっそり暮らせば・・・リズみたいに、ひっそりと・・・『ルイカ』は天じゃなく・・・足元に生えるのかも―、しれ・・・ない―わ・・・」
ルイカは言い終わらないうちに、目を瞑った。すぐに寝息が聞こえてきた。
「ルイカ?」
どうやらもう、寝ている。
窓の外は、まだ燦々と明るい。
この家に来てから、ルイカはまともに眠っていないのかもしれなかった。
クロトはルイカの無邪気な寝顔を見つめる。
「小さい体に、詰め込みすぎだよ・・・」
クロトはそっと、ルイカの頭を撫でた。
「君は『天の花』じゃなく、『死のバラ』に魅了されたミツバチかもしれないよ?」
クロトがぼやいた。
「『どんなに賢いミツバチでも、その核に辿りつくことは出来ない』」
ルイカは夢現に思った。
でも・・・女王蜂なら?




