見つかった契約破棄法
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ロビンは真剣に本を読んでいるルイカを見つめている。
本を読むのは苦手なので、こういうことはルイカに任せた方がいいと分かっている。ルイカは強制されもしないのに小難しい本を読みたがる変わり者なので、この手の本は得意分野だろう、みたいなことを思っている時だった。
ルイカはふと、視線に気づいてロビンと目を合わせる。
「何か見つかった?」
「いいえ、まだ」
ロビンは口元一センチが黄色い色をした白い棒を銜えていて、指を添えている。教師達に注意されても、一向に止める気配はない。しかし物が物なので、教師達も強制的にやめさせることはできないのだ。この様子を発見した生徒たちは、ロビンが堂々と煙草を吸っていると勘違いしているようだった。
おかしな所で校則が柔らかいこの学校では、外出許可日に飲食物を買ってもいい。ロビンが銜えているのは棒つきの飴玉なので、授業中でなければ何の問題もない。
しかし彼は入学当時から何かと目立っていたので、問題児として扱われている。成績がさほどよくない彼が寮の特別待遇室にいるのも、他の者達との隔離が目的だ。
ロビンは口から緑色のロリポップを取り出すと、ふぅ、と溜息を吐いた。
実際に煙草みたいな役割をしているようで、ロビンは隙があれば棒飴をしゃぶっている。
実は編入当時、彼は煙草を吸っていた。それを止めさせ、低血糖症の彼に飴をすすめたのはルイカなので、彼の虫歯を時々心配してはいるのだが、彼なりに体を気遣って、糖分があまり入っていない飴を選んでいるらしい。
魔法界には低血糖症者が多いので、彼に飴を禁止できる者がいない。
「今回は何味?」
「春の漢方薬シリーズ、鎮静効果がある薬草味」
「それは・・・美味しいの?」
「舐めてみる?」
ロビンは口から出した飴を示した。
「遠慮しておくわ」
「賢明だね」
ルイカは頷き、再び読書を始めた。向かい側でロビンが、ふぅ、と息を吐く。
両方が両方、会話をしなくても気まずくならない貴重な存在を快く思っている。
ぱらぱらとページを捲っていくうちに、ルイカの顔色が曇った。
日焼けした紙に書いてある内容は、確かに知識豊富な者が書いたのであろうことを彷彿とさせたが、専門書と呼ぶには些か疑問だった。教科書には絶対にならないだろう言い回しには、独断と偏見が八割方含まれている。
読んでいて気分のいいものではない、とロミオが言った意味が充分に理解できた。
ルイカはある文章に目を留め、眉間を寄せる。
「ロビン、あったわ・・・」
「え?ほんとに?」
ロビンはルイカの隣へと移動して来た。ルイカが文章を指差すと、本を覗き込む。
◇基本的には、一度契約した者との途中契約破棄はできない。ただし例外として、契約者とその対象生物(天使・悪魔・精霊など)との仲違いにより、それがなされることもある。つまりその対象生物が異空間に居住している場合、その生物に契約者が見限られ、異空間への逃亡が考えられる、ということだ。これは互いの関係の不和、もしくは戦闘時に不測の事態などが起こった場合に、対象生物が主人を見捨てることを意味している。
また契約はどちらか一方の死亡により白紙化することから、悪魔の間では契約者を殺すことが多々ある。これは契約者と他の対象生物にも言えることで、契約者は対象生物を気に入らない場合、殺害することでの契約破棄を可能とする。悪魔とわたしから見習い、読者もこれを参考にすべきである。
「なに、これ・・・偉そうな口ぶり・・・」
「問題はそのあとよ」
◇これは契約の効く卵生物と育児者にも言え、仮に孵化する前に契約し、何らかの理由で契約破棄を望む場合にも使用できる方法である。基本的には叩き付けるなどすれば容易にすむが、中には殻が非常に固く、通常の物理的攻撃に影響されにくい卵もある。
この場合はまず高温の炎で全体をあぶり、急速に冷やす手法が有効的である。毒草汁に漬け込むなどして、表面呼吸を止める方法もあるが、この場合の毒草は極力無味無臭無色の液体が好ましい。契約者が殺害を隠蔽する必要があった場合には、尚更効果的な方法である。また卵での殺害が不可能だった場合、孵化寸前に液体を張った容器に入れるのも手軽な方法である。また―
「うぇっ。やな奴っ」
ロビンは飴玉のせいで緑色になった舌を出した。
ルイカは本を閉じる。
「つまり契約破棄できる方法は、卵を事故に見せかけて破壊するか、契約者であるクロトとさんを殺すしかない、ってことね」




