何のたまご?
三章 星が定めし若人 編
クロトが風呂を終えた、九時過ぎだった。ノックに気づいてドアを開けると、そこには風圧で髪形の崩れたルイカの姿があった。クロトは「お帰り」と言いかけて、倒れるようにして入ってきたルイカの体を支えた。
「ルイカっ?」
「大丈夫・・・平気よ。少し、疲れただけ・・・」
ふらふらとソファに腰掛けたルイカは、上半身をクッションに伏せて溜息を吐いた。そのまま眠りそうなぐらい、目に見えて疲労していた。
***
キッチンとリビングを繋げているドアが開く。湯気を放っているルイカは、髪を拭きながらキッチンに入ってきた。着替えを持っていない筈なのに、また服が変っている。
「ネグリジェも黒なの・・・」
「趣味だから」
「・・・ミルクココア作ったんだけど、飲む?」
「ココア?」
ルイカは小さく首を傾げたが、数秒後に「ああ」と頷いた。
「一度だけ飲んだことがあるわ。人間界の―どこだったかしら?」
「アトリムグにはないの?」
「さあ?アトリムグって言っても広いし・・・」
「ふぅん?」
クロトはスプーンでココアパウダーをすくうと、カップに入れてかき混ぜた。溶けやすい、を売りにしているだけあって、茶色い粉はすぐにミルクの色を変えた。
「でも、私が知らないだけで、アトリムグの普通家庭にはあるのかもしれないわ。ミルクで溶かす粉末の話を、どこかで聞いたような気がする・・・それがココアかどうかは分からないけど」
クロトはルイカにカップを渡し、少し考えて首を傾げる。
「じゃあ君は、一般家庭の生まれとは―」
床をゴロゴロと移動する音が、クロトの話を遮った。
ルイカが視線を落とすと、自分の方に向って卵が転がって来ていた。
「どうして一階に?」
「自分で降りてきちゃったんだよ。また落ちるの心配だったから、リビングのソファに置いてたんだ」
「そうなの?気づかなかったわ」
ルイカはしゃがみ、卵を持ち上げた。
「どうやらお散歩好きみたいね」
「今日は三回も椅子から落ちてるよ。そういう種類なの?」
ルイカは首を傾げた。
「まだこの子が、どの種族なのか分からないの。観察を続けて一ヶ月ぐらいになるけど、日に日に大きくなってる。その特徴はカーバンクルかサラマントイでしかないの」
「カーバンクルは、第三の目を持つ猫、だったよね」
「そう。それに喋るわ」
クロトは瞬いた。
「喋るって・・・猫が?」
「そう。人の言葉を理解する生物がいる、って話したでしょう?猫科の動物は割りに頭がいいし、その中でもカーバンクルは上位に位置する種ね。一般会話はもちろん、簡単な数式の計算ぐらいはできるようになるし」
クロトは納得したのかしなかったのか、自分でもよく分からないままに頷いた。複雑そうな顔で、首を傾げる。
「数式うんぬんの前に、猫って卵で生まれるの?」
「そうよ?」
「その・・・カーバンクルじゃない猫も?」
ルイカは瞬いた。
「あぁ。そういう意味ね。いいえ。全部の猫科が卵で生まれるわけじゃないわ。もちろん、普通の喋らない猫もいるし、そういう種類は卵じゃ生まれないわ」
「ああ、なんだ・・・そうか・・・」
クロトは何故だか少し、ほっとする。
ルイカは微笑んだ。
「でもこの子は、サラマントイの可能性が高いわ。殻が丈夫だし、カーバンクルにしては成長が早い気もするし」
「サラマントイ・・・は、猫科?」
「いいえ。トカゲ族・小人科よ」
クロトは破顔した。
トカゲの小人?




