退学の予感
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部屋に入って扉を閉めると、薄暗い室内は密室となった。
サンズは足の丈が微妙に違う椅子に座り、溜息を吐くと手袋を外した。粗末なテーブルの上に両肘を乗せると、拳を組んで祈りのポーズのまま眉間を小突く。
「何故・・・何故なんだ・・・」
貧乏揺すりを始めた右足が止まらない。サンズは立ち上がり、先ほどの絵画を取り出した。座卓に立てかけると、ポケットに入っていたマッチを取り出し、擦る。小さな光が灯った棒を、テーブルの上にあった香壺の中へと放った。幾つもの小さな穴から、白い煙が漂う。サンズは壁の一部にかかった紫色の厚いカーテンを引き、その奥にある堀部屋のベッドへ腰を降ろした。
痙攣している右足が、煙の充満とともに大人しくなり、体が気だるくなってゆく。深い溜息を吐くと、それと同時にベッドへと倒れた。両手を投げ出して目を瞑っていたサンズは、顔を顰めて押さえる。髪に隠れている部分が、ひりひりと痛み出した。
フラッシュ・バック。
灼熱の右手。
サンズは体を縮こまらせ、胎児のような姿勢になる。体が小刻みに震え、食い縛った白い歯の間から嗚咽が漏れた。
「何故・・・何故なんだ、ミスター・クロティス・・・何故・・・あなたばかりが・・・」
サンズは歪んだ顔をシーツに埋め、震える拳を握り締めた。
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図書館のほぼ真中に腕章をした生徒が立つと、持っていたガラスのベルを鳴らした。読書に耽っていた生徒達が立ち上がりだす。ルイカは目頭を押えながら深い溜息を吐き、かぶりを振った。
ロビンは肩を押えながら首を回し、ルイカを見た。
「時間切れ」
ルイカは立ち上がり、浮かない顔で頷いた。
「どうするつもり?」
ルイカは数秒沈黙し、本棚の死角にいるロミオを呼んだ。本棚の陰から、ロミオの首だけが覗く。
「なに?」
「明日も来るから、ここの本はそのままにしておいてくれる?」
「いいよ」
ルイカはロビンと共に特別閲覧室を出て、元来た道を戻り始めた。図書委員を横切ったところで、ルイカの横目がロビンを見る。
「明日解決法が見つからなかったら、学校に報告するわ」
ロビンは数秒、沈黙した。
「運が悪かったら・・・退学?」
「・・・かもしれないわ」
「二番目のお姉さん探しは?」
「中止ね。家の者が許すわけないもの・・・」
ロビンはまた沈黙し、制服のネクタイをぎゅっと締め直した。
「報告する前に、シドに相談した方がいいんじゃない?」
「そうね。でも・・・ナーズの所にはいなかったの・・・」
「そう・・・」
図書館の扉を開けて、二人は外へと出る。
「明日も手伝うよ」
「ありがとう」
二人は頷き合うと、反対の方向に向って歩き出した。




