特別閲覧室
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一方、彼は・・・
ナイフとフォークを置くと、コップの中の水を飲み干した。皿の上にはチキンの骨と、フライドポテトが一個残っていた。先ほどまでは四~五人用の丸焼きがのっていたが、どうやら彼一人の胃袋へ、消えたようだった。
フライドポテトに気づき、彼は席を立ちながら一つまみ。
金を払って店を出ると、彼は眩しさに目を細めた。
革の腕輪をしている腕を敬礼のように眉にかざすと、目が痛むほどの青空だった。
風が吹いて、金髪が揺れる。
「ねぇ、君。一人?」
スカイブルーの瞳が、声の方へと向いた。
そこには二十歳前後の女が三人立っている。中々の美人揃いだ。
「暇だったら遊びに行かない?」
異様に膨らんだ斜めかがけの鞄を肩に、男はにっこりと笑った。
「行く~」
***
扉を開けると、壁一面が本で埋まっていた。どこを見ても、本、本、本。その間に、ちらほらと見知った生徒の姿があった。どうやらレポートの資料を読んでいるようだ。しかし、一般生徒用の大量生産された本に、手がかりがあるとは思えない。
「やっぱり、あるんなら特別閲覧室かな?」
「そうね。一般用は大抵読んだから、そっちに行きましょう」
ロビンとルイカは図書館の奥へと進み、木製の壁と柵がかかっているスペースへと向う。大人一人分の入り口には茶色いドアがあって、柱に挟まれた低い階段を上るようになっている。その柱の表面には豪華で細やかな大蛇の彫刻があった。
二人が階段の前まで来ると、彫刻の蛇が動き出す。柱を伝うようにして頭を上げると、二匹の蛇が舌をちらつかせた。
「許可組よ」
ルイカはコートの内側から、ロビンはズボンのポケットから、鎖で繋がれたドック・タグのようなものを柱の穴に刺した。すると蛇は大人しくなり、柱を伝って元の姿へと戻った。同時に扉のロックが外れ、ドアノブで押し引き用にカモフラージュしてあった扉が、自動で上に開いてゆく。
中に入る。
板張りの床に貴重な本が積み重ねてある。天井まで届きそうな本棚が幾つも並んでいたが、それでも収拾がつかないのだ。小部屋を二人は歩き、首を巡らせて目的の本を探した。今にも崩れ落ちそうなぐらい、四方八方に本が密集している。
人影があった。
冬用の制服を着ていて、分厚い本を広げている。足が浮くぐらいに高く積み上げられた本の上に座って、真剣に本を読んでいた。背中まで伸びた髪が、無造作に垂れている。
「失礼。ロミオ。お訪ねしたいことがあるのだけれど・・・」
腕に図書委員の腕章をつけた男は、本から視線を外した。
「やぁ、常連さん・・・ルイカ、だっけ?」
「そう。でも、あなた程の常連ではなくってよ」
ロミオは微笑する。
「それで?今回は何をご所望?」
「契約についての本を一連、読みたいの」
「それは確か、四年の後半にある課題じゃなかった?」
ルイカは肩を竦める。
「傾向と対策。予習は大事よ」
「なるほど。こっちだよ」
ロミオがそう言った瞬間、彼の姿が消えた。反対側で本が積まれてゆく音がする。二人が本棚を回り込むと、造り付けられている棚に、数十冊の本が積まれていた。
「大体こんなもんでしょ」
本棚の一番上に座っているロミオに向って、ルイカは微笑んだ。
「ありがとう、ロミオ」
ロミオは、ルイカの後ろにいるロビンと目を合わせた。
「それで?そっちの見ない顔君は、委員のサポートが必要?」
「ううん。僕はルイカのサポート役」
「そう。なら読書に戻っていいかな?」
「ええ。どうぞ」
ロミオの姿が消えると、一瞬で二つ先の本棚の間に人影が通る。どうやら気を使って、距離をとってくれたようだ。彼の場合、こちらが邪魔だと思ってのことかもしれなかったが、今のルイカ達には都合が良かった。
ルイカはさっそく椅子に座り、一番上にあった本を読み始める。
ロビンも本を広げ、視線を落とした。
暫くすると、「ねぇ、ルイカ」とロビンが言う。
ロビンの何倍もの速さでページをめくるルイカは、文字を指でなぞりながら、「うん?」と返した。
「ロミオがここにある本全部読んだ、っていう噂は本当かな?」
「さぁ?・・・でも二百年ぐらい図書館に住んでいるのだから、全部読んでいたって不思議じゃないんじゃない?」
「僕には一生かかっても読めないよ」
ルイカはふふ、と笑った。
「幽霊になったら、一生も何もないと思うけど」
「それもそうか」




