親友のロビン
四年生の寮に続く談話室の扉を開けると、数人の生徒がソファの周りにいた。入って来たルイカを見ると、それぞれが意外そうな反応を見せた。
「ハァイ。キムリ、ホノカ、キョボック」
小麦色の肌に紅色の髪をしているキムリは、ルイカのルームメイトだ。腰まで伸びている髪を後頭部で三つ編みにしているのが彼女の髪形の定番で、今日もそうだった。
「あなた、もう戻って来たの?」
「まさか。少し用事ができただけよ。ロビンとシドはいる?」
近くのソファに座っていたホノカとキョボックに聞くと、四年生で一番背の小さい焦げ茶髪のホノカが、「まだ寝てる」と答えた。その隣にいるのが、金髪にグリーンアイの少年、片耳に異常なほどピアスをしているキョボックだ。
「シドもいないよ」
「いない?それは寮には、ってこと?」
「校内に、ってこと」
「そんなっ」
ホノカが、くりくりとした黒目でルイカを見た。
「どうかしたのか?」
「え?いいえ。大丈夫・・・ただ少し、相談があって・・・」
ルイカが言いかけると、頭上の廊下で足音がした。手すりのついた廊下にミルクティー色の髪をした少年が現われると、ルイカは声を上げた。
「ロビンッ」
少年の眠そうな目が瞬く。
「ちょうど良かったわ」
寮は学年ごとに棟があって、どれもが十字架型をしている。真ん中が談話室で、右が男子寮、左が女子寮だ。出入り口真上と、正面二階の部屋は特別待遇室。普通は一部屋四人だが、特別待遇室は二人一部屋、運がよければ一人一部屋の時もある。
ロビンは壁に沿って曲がっている階段を降りて来た。
「なんでいるの?」
「相談があるのよ」
「そうだん?」
ロビンは片手に卵を抱えながら目を擦った。
「―って何の?」
「ここじゃダメよ」
「じゃあ調理室に行こ。お腹すいた」
談話室を横切り、二人は出入り口正面のドアへ入る。
「今起きたの?」
「そう」
「もう四時よ?」
「ふぅん?」
細い廊下の左側が調理室だ。しかしロビンは、一番手前の右のドアを開ける。食料庫とか、食材庫と呼ばれる部屋だった。部屋は薄暗く、僅かに土の匂いがする。棚には麻袋に入ったジャガイモや、珍しいものだと葉付きのチャイルド・ニンジン、ケナガトウモロコシなどが並んでいる。木製のテーブルに丸カゴが置いてあって、その中にリンゴが入っていた。
「まさかその卵・・・目玉焼きにでもする気じゃないでしょうね?」
「いいや。どっちかって言うと、スクランブルエッグが好き」
「は?」
「冗談だよ」
ロビンは青リンゴを手に取ると、上着で擦った。
「で、何だっけ?」
「緊急事態よ。相談にのって」
「うん」
ロビンはリンゴを齧り、赤いリンゴをルイカに示す。
ルイカはかぶりを振って、「真剣に聞いて」と言う。
「聞いてるよ。何?」
ロビンはルイカに背中を向け、トマトを物色。
「人間にバレたわ」
ロビンは咄嗟に振り返って顔を顰めた。
「―何を?」
「魔女だってバレたの」
「・・・ルイカが?」
ロビンはリンゴを齧るのを止め、「どうして?」と聞く。
「空を飛んでいる時に卵が暴れたの。それで地面に落ちて、天涯孤独の三十歳、魔法使い血筋の画家に姿を見られたあげく、正体を見破られたわ」
「で、何か要求してきたの?脅された?」
「いいえ。科学万能主義者でも、何らかの宗教妄信者でもないわ」
「じゃあ何が問題?」
「卵と契約されたの」
灰色の瞳が瞬いた。ロビンは近くにあった椅子に腰掛ける。
「それは・・・どういうこと?」
ルイカはこれまでの経緯を話した。
ロビンは話が終わると、無言のまま青リンゴをシャリシャリと噛む。セットされたみたいな寝癖だらけの髪をかき、「うぅん」と唸った。
「困ったね。本当に緊急事態だ・・・」
棒読み風のロビンの口調は、とても暢気に聞こえた。
「とりあえず、図書館行こ。僕達で解決法を導けたら、学校に報告しなくても済むかも」
ロビンは椅子から立ち上がり、青リンゴをもう一つ手に取った。




