客人
石畳の道を歩くと、ルイカのブーツがカツカツと鳴った。ホウキとコートはしまってある。黒ずくめの少女は、『N』という看板がぶら下がった建物の前で、細い足を止めた。
ショーウインドウには、色鮮やかなドレスが飾られ、その周りにはアクセサリーや小物が並んでいた。ジャーポ風、オリジナル洋服店、とでも言えば良いのだろうか。しかしそちらは趣味で、本業はハンドメイドのウエディングドレス店だ。
ルイカは深い緑色のドアを開け、店内へと入る。連動している金のベルが涼やかに鳴ると、ファイルを覗いていた女性がこちらに振り向いた。ソファから立ち上がると、紫色の目が細まった。
「あら、ルイカ。また来てくれたの?」
「ええ。でも―」
ルイカは微笑した。
「またトラブル付きよ・・・」
***
クロトが適当に包んだ絵を、サンズは受け取った。
「その手は?」
サンズに言われ、クロトはケガした右手を思い出した。
「ああ。これ・・・いえ、少し切っただけです。絵を描くのに問題はありませんよ」
「そうですか。くれぐれもお大事に」
「ええ。ありがとう」
同世代ぐらいだろうとは思っているが、実際にサンズが何歳なのか、クロトにはよく分からない。不健康そうな青白い顔と挙動不審さが重なって、年齢不詳だ。彼と知り合って数年もたつので、今更年齢を聞くのもなんだか気まずい気がする。
白い封筒を貰ったクロトは、精一杯の引きつった笑顔を向け、スモークガラスのかかった運転席に乗り込むサンズを見送った。黒光する車体が走り出すと、太陽で反射して眩しい。クロトは顔を顰めると、ドアを閉めて鍵をかけた。ソファのうしろに回って窓を全開にすると、空気の入れ替えを試みた。
「うっ・・・」
クロトは険しい顔で頭を押さえ、息を吐く。
いつもこうだ。
彼が来たあとは、いつも頭痛がする。
彼に染み付いている強い香の香りが、部屋にしばらく残るのだ。
鼻が曲がり、鼻腔が焼けそうだった。
眉間のあたりにいつまでも香りが残って、クロトはいつも頭痛を起こすはめになる。そのせいで残り半日は、気だるくなってしまうのが毎月の習慣になっていた。
きっと彼の車に乗れば、五分で死んでしまうに違いない。クロトはそう思いながら、のろのろとキッチンへ移動した。椅子に座るとほぼ同時、二階からゴトンという音が響く。クロトは頭を押えながら、二階を見上げて呟いた。
「自虐的なやつだな・・・」
ゴロゴロと床を移動する音が聞こえる。クロトは億劫そうに立ち、二階へと向った。
「義理でも親に似るのかな・・・」
だとするとかなり申し訳ないな、とクロトは思った。




