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天の花  作者: 猫姫 花
19/91

たまごと一緒に居候


 ルイカは泣きそうな顔を、いっきに顰めた。顔を上げると、クロトの活き活きとして落ち着いた目が見える。


「断ることさえできないんだったら、仕方ないさ。家のひととか、学校のひと達に説明が必要なら僕からも話してあげるし、言い訳が必要なら二人で考えればいい。僕のせいで君が留年だの退学だのは心苦しいからね・・・でも、それも全部明日からだ。いいね?」


 優しい口調だが、有無を言わせぬ雰囲気があった。


「えっ・・・ええ・・・」


 クロトは頷くと、シーツを取りにキッチンを出る。呆気にとられて動けないルイカの側を通ると、二階へと上って行った。

 ルイカはそれを目で追い、足が死角へ消えて行くのを見ている。


「・・・分からないわ・・・」


 ***


 ルイカは卵を鞄に入れて、二階へと上がった。すでにベッドメイキングされていて、クロトは枕を並べていた。


「毛布がないんだけどどうする?」

「いいえ。いらないわ。コートがあるし」


「そう。明日には用意しておくよ」


 ルイカは部屋の真中まで歩き、そこで止まった。


「どうして親切にしてくれるの?」

「どうして・・・の、意味がよく分からないよ」


 ルイカはベッドに腰掛けるクロトを見下ろした。


「人間行動学を少しかじっているけど、どの例にもあなたは当てはまらないわ。唯一当てはまるとすれば、あなたは私に、何か要求するつもりでしょう?」

「そう。当たりだ。すごいな」


 ルイカは眉間を寄せ、クロトを見た。


「何が目的?」

「君がよければ、アトリムグに行ってみたい」


 ルイカは破顔した。


「本当に、君や祖母が話した世界があるのか、僕が時折見る幻のようなものが、本当に向こうには在るのか・・・それを知りたい。この目で見てみたい」


 ルイカは慎重に聞いた。


「・・・それだけ?」

「できれば、スケッチとかしたいんだけど・・・ダメかな?」


 ルイカはさらに破顔した。


「それだけ?」

「え?あとはぁ・・・うん。それぐらいかな」


 立ち上がりルイカと擦れ違う。


「考えておいて。無理は承知だから、居候の条件じゃないよ」


 ルイカは咄嗟に振り向くと、クロトを呼び止めた。


「ちょっと待って。聞きたいことがあるわ。恋人の年齢は?」

「え?」


「あなたの恋人の、よ」

「亡くなった当時は二十八だったけど・・・どうして?」


 ルイカが睨むように長い沈黙をすると、きょとんとしていたクロトは突然瞬いた。


「ああ・・・そういうことか・・・」


 胸元で両手を挙げる。


「僕の許容範囲は、常に同世代か、年上だよ」


 クロトは苦笑しながら、ポケットの中の鍵をルイカに渡した。


「これは、僕の部屋とここを繋いでいる物置の鍵。スペアはない。もし僕が何かしたら、ピストルでも魔法でも使って、殺してくれていいよ」


 ルイカが鍵を握ると、クロトは頷いた。


「じゃあ、お休み」


 クロトが一階へ降りて行くと、足音が小さくなってゆく。

 ルイカは鍵と階段を見比べながら、思わず呟いた。


「やっぱり・・・分からないわ・・・」


 ***


 窓ガラスからは、青白い月光が差していた。ルイカはベッドには入らず、窓の向かいにある長椅子に座っている。これからを考えると不安で、眠れそうもない。


 私が今まで積み上げてきたものが、いっきに崩れるかもしれなんだわ・・・そう思うと自然に眉間が寄って、体が縮こまる。ルイカは卵を抱きしめ、そのまま横になった。虚ろな目で床を見つめる。白い顔に月光がかかり、ルイカの顔は青白い。固く目を瞑ってみたが、いっこうに眠気は来なかった。


「どこにいるの・・・リズ・・・」


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