限られた時間
「僕の?なぜ?」
「四つのうち、三つの卵が『血の契約』を受け入れる種類なの。もうここまで大きくなったから、マンドラゴラリスとカラスでないことは分かっていたけど、観察しなきゃいけないから・・・レポート送らないといけないけど、ここから離れられないの。卵の時に契約すると、その契約者と卵は一定の距離から離れられなくなってしまうから・・・だからレポートが送れないのよ。こんなこと報告したら、私・・・何でよりによって・・・」
ルイカは顔を両手で挟み、また動かなくなる。
「あの・・・え?もう少し分かりやすく・・・」
「観察しなきゃいけないのっ。卵を。それでレポートをまとめて、学校に提出するの」
「アトリムグにも学校があるの?」
「当然よ。五百年以上も前から義務教育だわ」
「それで・・・その、卵の観察?をしに、ここに来たの?」
「違うわ。それは関係なくて・・・いいえ。あるんだけど、直接は関係なくて・・・私四年生なの。四年生は特別授業で長期の外出許可が出て、私はそれを利用してこちらに出てきたのよ。だから自由に人間界を出歩けて、今年しかないの。この外出期間中にしか時間はないのっ。それまでに姉さんを見つけないと―」
「姉さん?君の?」
ルイカは小さく頷いた。
「二番目の姉さんよ。駆け落ちして、家を出たの・・・」
「そのひとを探しに?」
「そう。家はすでに、姉さんをいなかった者として扱っているわ。探すどころか、話題にもしてはいけない暗黙のルールができているの・・・私は立場上、堂々と姉さんを探せなくて・・・」
ルイカは卵を抱えながら、顔を俯けた。
「あなたは魔女の力を受け継いでいるわ・・・それであなたの安全は保障されたけど、その血のせいで卵との契約をしてしまったのよ・・・授業の内容は『卵の観察と孵化』で、ランダムに混ぜられた四種類の種族不明の卵を生徒に配り、保護・観察・記録させ、その良し悪しで成績を決めるの。生徒は自分がどの卵を受け取ったのか分からないから、まず『何の卵』か調べなくてはいけなくて、そこから孵化までの期間を、どこで過してもいいの」
「人間界でも?」
「そう。どこでも、よ。生徒がどの環境を選ぶか、という所から採点の基準は始まっているわ。生徒は観察ノートに時間や場所を書き込まなくてはいけないし、学校の外で生活する者は、学校へ報告書を送らなくてはならないの。それだけの自由がきく分、この課題は責任も大きく伴うわ。進級か留年かの分岐点にもなっているの」
「じゃあ、この状況は・・・とても悪い?」
「悪いってもんじゃないわ。最悪よ。人間と関わりあって、しかも血の契約までさせてしまったんだもの。留年ならまだしも、罰か退学になるかもしれない」
「そんなに悪い状況なのっ?」
「そうよ。家の者は誤魔化せても、学校から報告がくれば、結局家での立場は悪くなる。そうなれば、四年生の間はまともに出歩けない。姉さんを探せないわ・・・」
クロトは困惑しながら、頬をかいた。
「・・・よくは分からないけど・・・とにかく僕が契約してしまったんだね?ならば契約破棄すれば―」
言い終わらないうちに、ルイカは大きく被りを振った。
「ダメよ。言ったでしょう?あなたか卵が死ぬまで、血の契約は切れないの。それに卵での契約の場合は、契約者は一人のみ。つまりあなたは、この子の義理の親になってしまったのよ」
クロトは目を見開いた。
「そんなっ・・・だって・・・僕は知らなくて・・・」
「ただ血を付けるだけではいけないの。契約者は魔法使いか、それに相当する力を持つ者でなくては発動しないわ。そして己の利き手に己の血を満たし、四本の線を描くことでしか成立しないの」
クロトは唖然としながら、己の右手を見た。
「え・・・?」
「そうよ。あなたは最低限の条件を満たしてしまったわ・・・」
クロトとルイカは暫く、動かなくなった。




