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天の花  作者: 猫姫 花
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話せるところまで

「ところで。僕がアトリムグの関係者だと分かったのだし、今度は君が話してくれないかな?アトリムグのこと、魔女のこと」


 ルイカの顔色が変った。


「でも・・・それは―・・・」


「話せるだけでいいよ。差しさわりの無いところだけ・・・ね?」


 難しそうな顔で沈黙しているルイカに、クロトは笑いかけた。


「分かったわ・・・でも、少しだけよ?」


 一階のキッチンに戻ったクロトとルイカは、再び紅茶を飲みながら向かいに座った。

 クロトがコリンシリーズの挿絵師だと知ってからは、ルイカの表情も柔らかい。先ほどとは違って、ちゃんと紅茶を飲んでいた。


 ルイカが話す『アトリムグ』の話は、差しさわりのない内容ばかりだった。


 気候は各地によって違って、ルイカの実家は山の中だとか、雪は降らないが肌寒い所だとか、庭には薬草菜園があるだとか言うことだ。

 クロトの祖母、イヴァースが話したような不可思議な動植物がアトリムグにはいて、だいたいの生態が謎だと言う。もともと彼らの住んでいた空間に移住してきた身なので、魔法使いは必要以上の自然破壊をしないとか、そのせいで何百年も地形や建物が同じなのだということも教えてくれた。


 魔法使いの力の源が、自然界にある『何らか』であるとされているので、自然崇拝の思想が根付いているそうだ。その『何らか』、が解明されていないのか、それとも分かっていて差しさわる内容だったのかは、クロトには分からないが、教えてもらえなかった。


「あの紳士のことなんだけどね。あれは悪魔に取り付かれた人間である可能性が高いわ。そういう存在って少なからずいるけど、極力関わっちゃダメよ?やつらは自分の正体を見破る者が怖いから、自然にふるまって気づかないフリしているのが一番良いの」


「気づかれるとどうなるの?」

「最悪殺されるんじゃないかしら」


「随分と簡単に言うね」

「でも真実だもの。クロトさんみたいな体質の人間は、香を焚くと良くってよ。体に染み込ませるとか、ポプリの匂袋を持ち歩いたりとか・・・ああ。香水はダメ。極力自然界の匂いでなきゃ」


「でも、強い香りって苦手なんだよなぁ」

「あら。私もよ。煙草吸ってる人の体臭がギリギリ。葉巻吸ってるひととか、強い香水のひととは長時間体面できないの」


「そう。僕も。彼女を気に入った要因の一つに、香水をつけていなかった、というのが入るぐらい苦手なんだ。彼女の方は単に、香水を買うお金がなかった、―っていう理由らしかったけど・・・」

「まぁ。そんなご苦労を・・・」


 クロトはかぶりを振る。


「本人は自覚していなかったよ。彼女は元々、貧乏性だったから」


***


「ああ。そう言えば、あなたが恋人の部屋で見つけたのは本物の妖精よ。基本的に人畜無害で、花の上とか、花が好きな人の周りを飛んでたりするの」


「じゃあ本当に、小人に蝶の羽がついた、みたいな生き物が?」


「ええ。人語が理解できるレベルの妖精は、蝶に擬態していることもあるわ。『空耳』ってあるでしょう?あれは妖精のイタズラだったり、妖精の話し声が聞こえてしまった時におこるのよ」


「そうなのっ?」


「全部ではないけど、大体はね」


 長年をかけて意思の疎通を試みた結果、一部の知能が高い動物の中には、先天的に人語学習能力が備わっているのもあるのだとか。そういう動物はたいてい、魔法使いの側で一生を過ごすらしい。他にも捕獲したり、保護したり、異空間から呼び出したりもするそうだ。そういう時に役に立つのが、『血の契約』らしい。


「そう言えば、どうして君は人間界に?」


 ルイカは紅茶を飲みながら、僅かに視線を上にあげた。ふふ、と笑ってカップを置く。


「秘密」


「じゃあ、卵のことも?」

「そうね・・・どこまで話していいのか分からないわ」


「アトリムグの規律は厳しいの?」

「さぁ?生まれた時からアトリムグにいるから、内側の感覚はよく分からないわ・・・こちらでも、各地の常識って違っていたりするものでしょう?」


「それもそうだね」

 クロトはふと、窓へと目をやった。まだ薄暗くはないが、一度傾くと夕暮れは早い。

「ルイカ。アトリムグにはすぐ帰れるの?」


「え?」

 ルイカは窓へと振り向き、はたと我にかえる。

「ああ。もうすぐ夕方ね。そろそろ行かなきゃ」


 ルイカは立ち上がり、窓から空を見上げた。


「今から出発すれば、夜にはつくかしら?」

「そんなに入り口は遠いの?」


「いいえ。今夜は知り合いの家に泊めてもらうことにするわ」


 ルイカはポシェットを肩にかけ、コートを羽織った。卵で膨らんだ鞄を重そうにかけると、少しよろめいた。


「紅茶美味しかったわ。ありがとう」

「こちらこそ。久しぶりに楽しかったよ」


 ルイカはキッチンのドアから中庭に出て、「イサダルーク・キャタ」と唱えて両手を広げた。するといつの間にか、ルイカの手の中にはホウキが握られている。


 どこかホウキが出てくるのか、やはりクロトには分からなかった。


「じゃあ、クロトさん。くれぐれも他言は無用よ」

「分かっているよ・・・気をつけて」


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