第16話「選択」
夜。仁美のアジトの奥で、大樹はぼんやりと天井を見ていた。
あのパチンコ店での騒ぎから数日。仁美は相変わらず飄々とした態度で、机に広げた銃器の手入れをしている。
「なぁ……あれから誰も追ってこないんだよな?」
「さぁね。来るときは来るわよ」
「……軽く言うなよ」
その瞬間——。
コン、コン。
珍しくノックの音が響いた。仁美は眉をひそめる。
アジトの出入り口を知っているのは限られた人間だけのはずだ。
「誰?」
「市村大樹くんに用がある」
低い声が扉越しに返ってきた。
仁美は視線だけで「構えろ」と大樹に合図を送る。
ドアが静かに開き、スーツ姿の男が3人、黒ずくめの護衛らしき者たちを引き連れて現れた。
先頭の男はにこやかに笑うが、その目は氷のように冷たかった。
「初めまして。俺たちは《藍影会》。君を探していた」
「……俺を?」
「そうだ。あの日、街で見たんだ。小柄な女と揉め事をしていた君を。そして——あの青い殺気を」
大樹の心臓が跳ねた。仁美しか知らないはずの“青”という言葉を、この男も口にした。
「君の力を活かす場が、うちにはある。金も、地位も、復讐の手段も与えよう」
男の声は甘く、耳にまとわりつくようだ。
「はん、スカウトごっこはよそでやりなさいよ」
仁美が割って入ると、男の笑みがわずかに崩れた。
「二瓶仁美。君のことも知っている。しかし我々の目的は君ではない。退いてくれるなら争うつもりは——」
「断るわ。あんたらにこの子は渡さない」
仁美は立ち上がり、腰のナイフに手をかける。
空気が一気に張り詰める。
護衛の男たちが動くのと、仁美が一歩踏み出すのはほぼ同時だった。
「おっと、話し合いは終わりみたいだな」
藍影会の男が指を鳴らす。護衛が一斉に襲いかかる。
大樹は息を呑んだ。
——また、選択を迫られる時が来た。




