第13話「パチンコ店の仁美」
“仕事”を終えた廃工場の帰り道、仁美は満足げに鼻歌を口ずさんでいた。
一方、大樹は手の中に残るあの感触を何度も振り払おうとしていた。
血の温度。肉の抵抗。吐き気はもう波のように繰り返し襲ってくる。
そんな様子をちらりと見た仁美が、ため息をつく。
「はぁ……今のあんた、まさにチー牛って感じの顔。やめてよねぇ、辛気臭いの嫌いなんだけど」
「そんなこと言ったって……」
「もう! しょうがないわね」
仁美は唐突に大樹の手をつかみ、夜の街へと歩き出した。
「一仕事終えたら、やっぱここよねぇ~」
着いた先は、煌々とネオンが瞬くパチンコ店だった。
いつになく自然な笑みを浮かべる仁美は、大樹の腕をつかんでそのまま店内へ。
爆音と眩しい光が大樹を包み、めまいがしそうになる。
「今日はリーチが出やすい筐体の新台入れ替えなのよね~」と仁美は大はしゃぎ。
「あの、俺……未成年なんだけど」
「大丈夫大丈夫! 店員が来たらテキトーなこと言ってあしらえばいいんだから」
そう言うと仁美は財布から札束を抜き出した。
「ほら、十万。あんたも打ちなさい。好きな台選んでいいわ。損してもあたしが回収すればいいだけだし♪」
「……はぁ」
表情を曇らせたまま、大樹は仁美が座る左隣の台に腰を下ろす。
その直後——。
「あの、お客様……」
店員に声をかけられ、慌てて振り向く。
「は、はい! な、なんでしょう?」
「当店では未成年の入店は固くお断りしておりまして」
「はいは~いストップストップ。それ、あたしのツレね。ちんちくりんだけど二十超えてるから」
「では身分証を……」
「うっさいわね! あたしが成人って言ってんだから素直に聞き入れなさいよ! こいつ免許もマイナンバーカードも持ってないの!」
「は、はい。失礼します……」
店員を追い払うと、仁美はすぐ画面に向き直った。
「この試行回数で連チャン来てんの、やばいわ~。神台確定じゃん♪」
だが、その浮かれた空気は長くは続かなかった。
「お客様……」
「あん?!」
仁美が睨み上げると、そこには頑強な体躯の男が立っていた。
「未成年の入店は固く禁じております」
「さっき聞いたわ。こいつは成人だって話もしたでしょ? 鳥頭なワケ?」
「では身分証を……なければ強制退店させていただきます」
仁美の口角が吊り上がる。
「あたしとやろうっての? いいわ、上等よ。かかってきなさい」
(おいおいおい! このままじゃ俺もまとめて反社扱いされる~!)
頭を抱える大樹をよそに、仁美と“店長”の肉弾戦が幕を開けた。




