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第2話-思春期なんて大嫌いだ

 年頃のモデル顔負けの美貌と、男女問わずくすぐる天性のキュートボイスで、いま大人気のアイドル冬花とうか春凪はるなが……


 今、俺の家で…………俺の部屋で…………寝ている。


 彼女のファンの何人が、この出来事そのものを想像しただろうか。 何人がこの立場になりたいと願っただろうか。このイベントを体験するためなら、どれだけの人が死んでもいいと思うだろうか。


 もし俺が彼女のファンでこのような質問をされたら、俺の答えは「イエスイエスイエス!」だ。


 ただし、それは俺が彼女のファンであったらの話だ。


 高校デビューに不幸な経験をした同級生である俺が、ひょんなことから彼女と関わることになるとは、想像もしていなかったし、願ってもいないことだ。


 正直なところ、俺にとっては災難でありリスクでしかない。

 人を助けることが、こんなにも面倒で危険なことだなんて……


 彼女の希望通り、さっきの警官に別れを告げた後、俺たちは彼女が休めるとこ、俺のアパートに行くことにした。アパートが近かったのは本当に良かった


 正直、この状況を狙った……

 いや、下心があるという意味じゃなくって。


 ただ、数週間知り合っただけの同級生という関係なのに、彼女の家の場所を知っていて、そこに行くのはなんか間違っているからだ。


 まあ、この状況が決して良いとは言えないだろうけど……


 しかし、それでも俺はこの方がいい。彼女もそうらしいし。何れにせよ、こうすることで、彼女が病気であることを誰にも知られることなく、ちゃんと休むことができて、回復することができる。


 俺は彼女を支えながら、アパートに向かって歩いた。途中、彼女にこの後の予定について話し始めた。


「冬花さん、先に言っておきます……俺のアパートには空き部屋がないから、俺の部屋のベッドで休んでもらいます」

「……」

「ですよね……やっぱ、その反応なるなぁ……何も心配することはないって言いたいんだけど……こういう時にそういうことを言うと大抵裏目に出るから……代わりにこれを言います――」


 俺の視線を感じたのか、彼女も俺の方を向いて答えを待った。

 自信を持って彼女に答えた……


「俺、最後の一歩が踏み出せない腰抜けのですので、こんなチキンに何も心配することはないですよ!」

「…………ふふ……なにそれ……」


 彼女は微かに笑った。

 

 そのあと、彼女が納得したのがいいのか悪いのか、俺にはわからなかったが……

 

 ……特に俺の気持について。


 とにかく、彼女の同意を得て、俺のアパートでどうやって休むかの計画を立てることができた。

 幸い彼女はまだ体力があったみたいだから、思ったより早く家に到着することができた。しかし、鍵を開けて中に入った瞬間――――


「冬花さん、着きました。靴を脱いだら部屋に案内します。それで、水と――!?」

「ごめん……冬花くん……私……もう……限界みたい……」


 さすがに演技経験のあるプロというべきか、俺が思った以上にひどい状態であることに気づくことができなかった……

 やっとリラックスできると思ったのだろう。ここに来るだけの体力はあったのだが、彼女の体が先にギブアップしてしまった。


 俺は慌てて彼女をベッドの方に支え、そっと寝かせた。どうにか薬と水を飲ませてから、彼女は気絶するように眠った。

 そのあと、彼女の頭に濡れタオルを乗せ、楽にさせてから体温を測った。寝ている間に何かするのは気が引けたが仕方がない。


 彼女の体温は思ったほど高くなかった。体温計は38.4℃を示し、今の彼女の状態とは不釣り合いだ。ということは……


「過労……だな。間違いなく。水を全部飲み干した様子からして、たぶん脱水症状も……ちゃんと休んでるんだろうかこいつ……はぁ……」


 まあ、そんなにおせっかいをするつもりはないんだけど。


「いや、十分お節介になってるか……」


 俺は医者じゃないから彼女の状態をちゃんと判断する自信はない。俺ができるのは、彼女が休んでいる間に何か変化がないか見守ることぐらいだ。もし俺の考えが正しければ、数時間休めば少しくらいは良くなるはずだ。


 もう一度、はっきりと彼女を見渡した。

 彼女は少し赤く見え、温かい息を吐いている。

 

 彼女の汗が肌に付着し、わずかに光っていて……

 全体的に彼女の姿がいつもより儚げで……

 それでいて…………


(こいつ、反則すぎる……!)


「――って、おいぃ! やめんか俺! そのさきは考えるな! くぅ……不純な考えはダメだ……こんな目で病人を見てはいけない……! よし。隅に移行」


 この部屋で彼女を一人にしておくのが正しいとはいえ、彼女から目を離すわけにはいかない。しかし、こうして彼女の姿を見ているのは、単純に拷問だ。


「不純な考えはない……そうだ、不純な考えなど持っていない……不純な考えは……えいい、消えろ!」


 こうしていればいるほど、不純な考えを持っているような気がしてくる……くぅ…………


「うぅぅ……最低だ俺……」


 病人を見守りながら何かを考えてしまうことの罪悪感と、自分への失望と嫌悪感で涙が出そう……


「くっ……思春期なんて大嫌いだ……うぅぅ……」

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