第11話-許してくれ……
「実は私……私は風紀委員会に入りたいんです」
「……ん? 風紀委員会に入りたい?」 俺は自分の席に戻りながら尋ねた。
「はい……」
彼女……じゃなくて、渡邊さんは、俺にぶつかる前に物事を説明し始めた。
「授業が終わった後、私は風紀委員室へ行ったのです。中に入って、風紀委員になりたいと言いたかったんですけど……できなかったのです」
「できなかった? どうして?」
「ドアの前に立っていたら……上級生が何人か来ていて……どうしたのとか、風紀委員に用事でもあるのか……などと質問されての。不意を突かれたので、ちゃんと返答できなかった……」
あの時同じ経験をしているかのように、彼は肩を落とした。
「そして……まともに返事もできない私に、彼らは優しく話しかけてきたの……『大丈夫、落ち着いて』……と、彼らはまず私を安心させようとした……それからもう一度『大丈夫……何に悩んでいるのか、ちゃんと最後まで話を聞いてあげるから』と言われた……」
俺が最初に思ったのは、『んん、まあ、風紀委員がとる普通のアプローチだな』、ということだった。変なことは何もないが……
しかし、問題はそこじゃなかった――
彼の表情と次の言葉で、そんな俺の思いは一瞬にして吹き飛んだ。
「彼らの心配を聞いて……そして、彼らの思いやりの表情を見て……私は……その場から逃げ出しました」
「……え?」
「嫌だったんです……私を、助けが必要な人間だと思ったことが……」唇を噛み締め、拳をぎゅっと握りしめながら、彼はそう言った。
その時の彼の悔しさを感じた。
「私は……こんな弱々しい自分が嫌いんです。女らしく見えるのわかっています。それでも、女性として扱われたくないです。私は男なんだと……それを見せたかった。だから、最初は何を言われても気にしなかった。男らしく、他人の意見なんて気にせず、自分を信じて……」
…………なんというか……ごめんなさい。本当にごめんなさい。
俺は謝らずにはいられなかった。
「でも……気づいてから嫌いになったんです……みんなが何を言おうと……たとえそれが、私に対する応援の一言でも……私をからかう質問でも……私を褒めているつもりの発言でも……みんなは……ただ……私を哀れんでいるだけなんだと……!」
悔しいさから怒りへ……
彼を悩ませている問題が単純なものではないことは気づいていたが……見た目以上に大きな問題だとは思っていなかった。
ああ……これは確かに、簡単に人に持ち出せるような話題じゃないな……
特に会ったばかりの人に……俺は一体何を彼に納得させてしまったんだ……
何とか彼をなだめるために、せめて何か言うべきなのは分かっているが……しかし、言うべきことが見つからず、パニックになり始めた。
ありがたいことに、俺の沈黙を、彼の話を深く聞いているというサインと受け取ったかのように、渡邊は話を続けた。
中学時代、どうやら渡邊は上級生が何かで揉めて喧嘩になりそうな場面を目撃した。どうなることかとハラハラしながら、その場に居合わせた者としてどうすべきか考え続けていると、風紀委員長がやってきて彼らを見た。
「躊躇することなく……彼女はまっすぐ前へ進んだのです……『一体何の騒ぎだ』と当事者に尋ねました。大声こそ出さなかったものの、彼女の澄んだ言葉と凛とした佇まいにみんなが注目し、反論することはできなかったんです」
渡邊はあの時、風紀委員長に感銘を受けたようだ。彼女がどのようにあの状況に立ち向かって、対処したかを目の当たりにしたとき、自分のありたい姿を体現している例を見ることができたと感じた。彼女に触発された渡邊は、自分磨きを始めたのだ。
「その場を収めた後、他の生徒たちから「喧嘩しそうな上級生と向かい合って、怖くなかったんですか」と聞かれたのです……すると、「こういうときのために訓練してきたんだ、でないと君たちが尊敬する風紀委員長にできないだろう」という答えに、感動しました」
渡邊はさらに、風紀委員長がさまざまな護身武術の訓練を受けていることを知った。彼女は風紀委員の仕事の一環として、すでに生徒たちの前で何度か専門的な技を披露していると。それを知って、彼は自分自身をどのように磨き始めるかを決めることができた
自分を強く信じ、他人の言うことなど気にも留めなかった彼は、周囲の声に耳を傾け、それらを使って自分を磨く方法を知るようになった。彼は今、以前はただ自分を納得させようとしていただけで、すでにあきらめており、自分に対する他人の評価に対応できていなかったことを受け入れた。
自分があまり傷つかないように、自分にとって都合のいいように自分の考えを捻じ曲げていたことに気づいた。
渡邊は今までの思いをすべて投げ捨て、新たなスタートを切った。そして、自分を磨くための明確な目標と方法を決めた。そして、それは……
「私は……風紀委員会に入りたい。風紀委員会に入って...風紀委員会の一員としてきちんと行動できるように自分を磨きたい。そこでなら……自分を追い込んで、私も男であることをみんなに証明できると思うから」
悔しいさから怒りへ、そして決意に……か。
俺が何もしなくても、彼は自分を励まし、元気づけることができた。そこからはもう、男らしいと褒めてあげたい。
だかろ……頼む……これだけは言わせてくれ――
誠に申し訳ありませんでした!!
毅然とした表情で俺を見つめるから、罪悪感からその場でひれ伏して謝る前に、何か言わなければならなかった。
「そうか……どうやら……どうすればいいか、もう……分かっているみたいな……」
「……はい。覚悟はしていたのですけど……またあの感情を経験したとき、それを忘れてしまった……本当、恥ずかしい限りです……」
「……恥じる必要はない。大切なのは、それに直面してどうするかということだ。そして……お前の場合はもう気にする必要はないみたいだな」
「はい!」
「……よろしい」
自分でも矛盾しているような気がしたけど……どうしても手を伸ばして、彼の頭を撫でずにはいられなかった。
彼が言っていたにもかかわらず、俺が彼を馬鹿にしたように見えるのは分かっている! でも……本当に不可抗力なんだ! 馬鹿にしているわけじゃないんだ!
彼を誇りに思っていることを示すためにやったんだ! 本当にだ! これは、ただ単に、彼の笑顔がかわいいと思ったからだけではないんだぁー!!
ありがたいことに……渡邊は嫌がらず、むしろ嬉しそうだったから、俺は彼を撫で続けた。