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第10話-俺は……何をしているんだ?

「あの……」

「……え? あっ、 は、はい?」

「ぼーっとしてたみたいですけど……本当に大丈夫……ですか?」

「あ、あ、はい。大丈夫……です」


 そう指摘されて、俺はすぐに立ち上がった。

 見つめていたのは本当だから、それを悟られたくなくって慌てた。

 そして、これを認識したとき、恥ずかしくなった。


「立てるか? ほら……あっ」


 もう一度相手を見たとき、何かがおかしいと感じた。

 相手は俺の動揺に気づかず、俺の手を取って立ち上がった。


「ありがとう……ございます……」


 彼らが立ち上がった時、その理由がわかった。


「改めて……ぶつかっちゃってごめんなさい……これから気を付けますので……」

「あぁ……うん、本当に大丈夫……ですので……」

「先生たちが廊下は走っちゃいけないって言う理由がわかりました……あはは」


 その小さな笑い声は、聞いていても見ていても可愛らしかった

 その姿とともに、まさにかわいさの塊だった。

 しかし――


「あぁー」

「ん……? どうしたのですか?」


 しかし……彼は、学園の男子の制服を着ていた。


「え? はっ! え……あ、なんで走ってたか教えてくれるか?」

「え? それは……」

「速く走っていたような気がしたんだが……なんでだ?」


 今の混乱している自分をごまかそうとして、適当に会話を投げてみた。


 男子制服……彼、なんだな…………いや、しかし、本当に【彼】なのか?

 本当に? いや……もしかして、本当は【彼女】だけど、男子の制服を着ているだけじゃないか?

 

(しかし…………いや、一方的に決めつけるのはよくない)


 男子制服を着ているのだから、【彼女】じゃなくて、【彼】だと考えていいだろう。

 ……いや、しかし……本当に間違いないのだろうか…………?

 くそっ! なんでこんなに動揺しているんだ俺は!?


 俺が内心動揺と向き合っていると、どうやらか……彼も同じだったようだ。

 ズボンをつかみ、目を泳がせ、肩を縮めていた。そんな彼を見て、俺は少し落ち着いた。


「……わるい。初対面の人と言えるようなことじゃないみたいだな」

「あ……それは……」

「大丈夫。俺は別に怒ってないから。それに、二人ともしろ大丈夫そうだから。無理して話す必要はない」

「……ごめんなさい」

「……大丈夫」

「……えっ」


 思わず手を伸ばし、彼の頭を撫でた。今の彼の姿は見るに耐えないもので、このまま置いておけなかった。


「何か困っていることはあるか? もし俺でよければ、話を聞いてあげるから」

「あ……それは……」

「……俺の名前は、冬花とうか宏輝(ひろき)だ。1年Aクラスから。よろしくな」

「……同じ1年生……Bクラスからです……渡邊わたなべ友希(ゆき)です。こちらこそ、よろしくお願いします……」


 渡邊・友希……友希か……いい名前だな.……

 本当にか……彼に似合っている。うん。


「こほん……渡邊さん、ここじゃなくて中庭で話すか」

「……はい」


 なんだか無理矢理付き合わせているような気がする……でも、仕方がないのだ……

 誰の目から見ても、彼は十分に悩んでいるように見える。繰り返される言葉と弱々しい行動を見れば、これ以上ないほど明らかだ。


 俺たちは、この学園が持っているとんでもなく広い中庭に移動した。建物からも人からも少し離れた近くのテーブル付きのベンチに座った。


「えっと……渡邊さん」

「はい……なんでしょう……?」

「……ごめん、ここに連れてきて」

「……」

「大丈夫、何も言わなくていいから」

「……え?」


 ようやく彼は不思議そうに顔を上げた。

 そりゃそうだろう。だって、俺はここで話をしようと提案したんだ。それなのに突然、何も言わなくていいと言い出すなんて……

 俺、どうかしてるのか?


 いや……違う。だって、俺は彼の状況を知らない。それがわからないと、強く出たくはない。

 だから、ここではゆっくりとしたアプローチでいこうと思っている。


「話したくないなら、それで構わない。さっきも言ったように、俺たちまだ会ったばかりだし、悩んでいることをそのまま誰かに言うのは気が引けるだろう。無理に話さなくても、俺が怒るとか、そういう心配はないから」

「そう……ですか」


 でも――


「俺は……ここに残るだけだから、話したくなかったら行ってもいいよ」

「……っ!」


 ごめん……強引かもしれないけど、お前を放っておけないんだ! こんな風に弱々しく震えている姿を見たくない! 男としてお前を見過ごすできないんだ!


 俺がしたことは実質的に、彼を無理矢理引き留めて、俺と話すことだ。


 今の遠慮がちな性格を見れば、私がそんなことを言えば、彼は自分を心配して始めてくれた人を無視することをためらい、ここから離れられなくなることは、もう目に見えている。


 許してくれ……! 俺はお前の力になりたいだけなんだ!


 その証拠に、渡邊は丸くなって俺の前でじっとしている。


「……」

「…………」


 すでに数分が経過しているが、沈黙はまだ続いていた。


「渡邊さん」

「! あ、はい……?」

冬花とうか春凪(はるな)のこと知っているか?」

「はい……あのものすごく有名なアイドル……あ……冬花……」

「違う、俺と彼女は何の関係もない。たまたま同じ珍しい苗字をあっただけ」

「そう……ですか」


 沈黙が長引くとよくない。彼を無駄に苦しめているに等しい。残酷だけだそれは。

 そこで俺は、彼の緊張を少しでもほぐそうと会話を始めた。


「しかし、そのせいで、俺は周囲から不必要な注目を浴びた……彼らは俺がアイドルと同じ苗字であることが気に入らず、しつこく俺を煩わせた。」

「それは……ひどい……」

「だろう?  まあ、ありがたいことに、彼らはもう俺にあまりちょっかいを出さなくなったが……うん、そう、新しい学校で高校生活を始めたばかりの人間にとっては、嫌な経験だった」

「そう……ですか」

「渡邊さん」

「ん……?」


 俺は席を立ち、彼の方へ歩き始めた。


「俺みたいに嫌な高校生活を過ごしてほしくない。お前が何かに悩み、不安を感じているのはわかる」

「……」

「たまたま会った見ず知らずの人が、こんな風に心配してくれるなんて、怪しいとか変だとか思うかもしれないが――」

「あっ!」

「信じてくれ。俺はただ、お前が笑ってほしいんだ。そのためなら、何でもするから!」 そう宣言しながら、彼の手を握りしめた。

「……っ!」


 冗談を言っているじゃないぞ。俺は何でもする。こんなかわいい女の子のため――

 じゃなくて! 困ったっている…………同じ1年生……?

 ――のためならば!


 俺は毅然とした表情で彼をまっすぐに見つめた。

 彼は俺を見つめ返したが、でもすぐに目をそらした


「……わかりました…………ですから……」

「ん? なに?」最後の言葉が聞き取れなかったから、尋ねた。

「ですから……」

「ん?」

「そろそろ……手を……放してくれませんか……」

「あ、うん……」


 俺が手を放した後、彼は赤い顔を隠すように両手を顔の前で合わせた。


 くそ! かわいい!

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