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夜のモールで彼女はひとり

夜のモールを歩いたことがあるだろうか?

蛍光灯がまばたきをやめた後、

ポップな音楽が流れなくなったとき、

あの広すぎる空間は、途端に"「違う場所」"に変わる。


誰もいないはずなのに、足音がもう一つある。

暗いはずなのに、目が慣れて見えてくるものがある。


これは、不良少女が迷い込んだ、夜の裏側の物語。

何も起きない。

でも、確かに「いた」。

夜の大型ショッピングモール。

時間は22時を過ぎていた。


ネオンはまだ瞬いていて、飲食店のいくつかは営業中だった。

ゲームセンターの光と音が遠くから滲む。

フードコートにはテーブルを囲む学生たちの声が混ざる。


あたしはその中にいた。

スカートは少し短めで、ルーズソックス。

胸ポケットにはくしゃっとなったピンクのライター。

そんな“いつものあたし”だった。


みんなと騒いで、コンビニでジュース買って、

ゲーセンでプリ撮って、笑って、

――ふと、気づいたら、

誰もいなかった。


一瞬スマホを確認したけど、電波はあるのにLINEは送れない。

着信履歴は真っ白だった。


「……は?」


あたしは声を出してみた。

返事はない。


「ふざけんなって、もー」


誰かの悪ノリかと思って歩き出す。

でも、すれ違うはずの店員もいない。

フードコートは明かりがついてるのに、誰もいない。

BGMも止まっている。

けど、照明だけは妙に明るくて、

どこもかしこも清掃されたばかりのようにきれい。


足音が響く。

自分の靴音が、妙に大きい。

そしてもうひとつ、少しだけ遅れて鳴る足音。


振り返っても誰もいない。

スマホをもう一度確認すると、電池残量が「%」ではなく、時計のマークになっていた。

「なんだこれ。」



見慣れたはずのフロアが、知らない建物みたいに思えてくる。

いつも行くトイザらスの隣にあったはずの本屋が、

白い壁に変わっていた。


「ただの模様替え?そんな時間に?そんなわけないじゃん。」


歩いても歩いても出口にたどり着かない。

吹き抜けの天井が、なぜか高くなっている。

エスカレーターが、逆方向に動いている。

誰もいないのに、休憩スペースのベンチに置かれた紙袋。


「……やばくね?」


自分でも分からない声の震えを感じた。

でも、足は止まらなかった。

だって、止まったら、何かに「見つかる」気がしたから。



トイレの鏡を覗いたら、

そこに映る自分の顔が、いつもより少しだけ年を取っていた気がした。

ルーズソックスの折り目が、崩れていた。

あたしは叫ばない。でも、確信した。

ここはもう、さっきまでいた場所じゃない。


明かりは消えていない。

音もないけど、静かでもない。

何かがずっと「こちらをうかがって」いる。

やがて、どこかの店のレジ裏から、

「おかえり」と声が聞こえた。


振り向いても、誰もいなかった。



気がつくと、

ゲームセンターの隅で、友達に肩を叩かれていた。


「なぁ、何してんの? さっきから黙って突っ立ってさ。てか、顔色やばくね?」


あたしは少し笑って、「うっそ、何それ」と言った。でも、まだ足音がふたつ、響いている気がしていた。

そしてスマホの電池は、100%に戻っていたけど、時計のマークはそのままだった。

夜のモール。

誰もが知っていて、誰も最後まで歩き切ったことのない空間。

あそこは、もしかしたら「世界」の裏側に繋がっている場所なのかもしれない。

今回の少女には名前がありません。

でも、読んでいるあなたが、あのモールにいたことがあるのならば、彼女とすれ違っていたかもしれません。

次にモールへ行く夜、もし音楽が止まったなら、

立ち止まらず、歩き続けてください。

立ち止まったその瞬間、“誰か”に気づかれるかもしれませんから。

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