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言葉屋シオリ  作者: 水城シオリ
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言葉屋シオリ、コスプレをさせられる

本作は、言葉を操ることを生業とする「言葉屋」シオリが、普段の静かな仕事とはかけ離れた「コスプレ」という世界に足を踏み入れる物語です。

彼女が日常的に向き合っているのは「言葉」という無形のものですが、今回のエピソードでは「外見」や「装い」といった、目に見える形の表現にも新たな価値を見出していきます。自分を変えるきっかけや、新しい自分を知る機会は、時に予期せぬ形で訪れるもの。本作を通じて、見た目もまた一つの「言葉」であり、表現であるという視点を楽しんでいただければ幸いです。

序章:ひょんなきっかけ

ある日、シオリは神楽坂の路地裏にある行きつけの喫茶店「文月」で、ひと息ついていた。静かにコーヒーを飲みながら、持ち込んだ仕事の原稿に目を通していると、親友のアユミが勢いよく扉を開けて飛び込んできた。

「シオリ!お願い、助けて!」

「どうしたの?」シオリは冷静に尋ねた。

「実は、今度のイベントで“コスプレモデル”を急きょ頼まれてた人がキャンセルになっちゃったの!代わりにシオリに出てほしいのよ!」

シオリは眉をひそめた。「コスプレ?あの……アニメとか漫画の衣装を着るやつ?」

「そうそう!でも、ただ着て立ってればいいだけ!シオリ、顔もスタイルもいいし絶対似合うよ!頼むから!」

「いやいやいや、私はそういうの興味ないし。そもそも人前に立つなんて性に合わないわ。」

シオリは即座に断ったが、アユミは諦めない。

「お願い!これはただの趣味じゃなくて、ちゃんとした仕事みたいなものよ!あとでお礼もするから!」

「お礼って、何?」シオリは怪訝そうな顔で聞き返す。

「美味しいお米をお取り寄せしてあげる!」

「……ちょっと迷うじゃない。」


コスプレデビュー:レムになるシオリ

イベント当日、シオリは渋々ながらも指定された控え室に向かっていた。アユミの熱意とお米の誘惑に負けた結果だ。そこには、彼女が着るべき衣装が用意されていた。

真っ白と黒のフリルが際立つメイド服――「Re:ゼロから始める異世界生活」の人気キャラクター、レムのコスプレ衣装だった。

「え……これを着るの?」シオリは衣装を手に取り、眉間にしわを寄せた。

「似合う似合う!シオリ、肌も白いし、髪をウィッグで青くすれば絶対可愛いって!」アユミは目を輝かせる。

「可愛いって……私はただの言葉屋よ。言葉は着替えられるけど、服は簡単には馴染めないわよ。」

文句を言いながらも、結局アユミに押される形で着替えることになった。


鏡の中の自分

着替えを終え、ウィッグをかぶったシオリは、控え室にある大きな鏡の前に立った。

黒いフリルに白いエプロン、細かいレースの装飾が施されたドレス。そして短く切り揃えられた青い髪。

「……これが私?」

思わず言葉を失ったシオリ。普段は無地のTシャツや地味なスカートばかり身につけている彼女にとって、これは完全に未知の世界だ。

「……意外と、悪くないかも。」

シオリはそっと自分の頬に触れ、鏡の中の自分をじっと見つめた。


そこにアユミが入ってきて、大きな声を上げた。「ほら!言った通りじゃない!めちゃくちゃ可愛いよ!」

「うるさいわね、そんな大声出さないで。」そう言いながらも、シオリは口元を隠しきれない小さな笑みを浮かべていた。


イベント会場でのシオリ

イベント会場に立つシオリ。普段は言葉を武器にする彼女が、今日は「可愛らしいレム」として多くの人の注目を浴びている。

「え、あのレム、めっちゃ似合ってる!」

「表情が少しクールなところがまたいいね!」

通りすがりの参加者たちから聞こえる称賛の声に、シオリは小さく息を吐いた。

「こういうのって、こうやって周囲の言葉が飛び交うものなのね……。それにしても、この服を着て『可愛い』なんて言われる日が来るとは思わなかったわ。」

少しずつ、シオリはこの状況を楽しみ始めている自分に気づく。

「あの……写真撮らせてもらえますか?」と言われるたびに、軽く微笑むようにしてみたり、少しだけポーズを取ってみたり。

「悪くないわね、この感じ。」

シオリの中に、小さな「ナルシスト」のスイッチが入った瞬間だった。


エピローグ:言葉屋の日常へ戻る

イベントが終わり、控え室で衣装を脱いだシオリは、再び普段の自分に戻った。しかし、アユミの差し出した写真を見て、もう一度目を丸くする。

「……これが私?」

写真の中の自分は、普段のシオリとはまるで別人。青い髪、フリルの服、そして少し恥じらいながらも自信を持った表情がそこにあった。

「これ、悪くないじゃない……。私って、結構……可愛いかも?」

シオリは思わず小さく呟き、ハッとして口を押さえた。

「いやいや、私はそんなキャラじゃない。」

しかし、どこか誇らしげな気持ちを抱えながら、彼女は再び街の路地裏へと歩き出した。

「たまには言葉以外の“表現”をしてみるのも悪くないわね。」


シオリの新たな発見

この経験を通して、シオリは「外見もまた言葉の一部」であることに気づく。普段の自分では触れることのなかった「可愛さ」という表現を学んだ彼女は、少しだけ自信を得たようだった。次の日から、彼女が密かに通販で別のコスプレ衣装を検索していたことは、誰も知らない……。


前書き

本作は、言葉を操ることを生業とする「言葉屋」シオリが、普段の静かな仕事とはかけ離れた「コスプレ」という世界に足を踏み入れる物語です。

彼女が日常的に向き合っているのは「言葉」という無形のものですが、今回のエピソードでは「外見」や「装い」といった、目に見える形の表現にも新たな価値を見出していきます。自分を変えるきっかけや、新しい自分を知る機会は、時に予期せぬ形で訪れるもの。本作を通じて、見た目もまた一つの「言葉」であり、表現であるという視点を楽しんでいただければ幸いです。


あとがき

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。言葉屋シオリが「コスプレ」という未知の世界に挑む今回の物語は、彼女にとっても読者にとっても、新たな発見が詰まったエピソードだったのではないでしょうか。

普段は内面や言葉の力を重視するシオリが、「装い」を通じて自分の新たな一面を発見する姿は、誰しもが持つ変化への可能性を象徴しています。外見や服装は単なる「飾り」ではなく、時には自分を再発見し、周囲とのつながりを生む重要な「表現手段」であることを感じていただければ嬉しいです。

また、シオリの密かな心の変化や、最初は戸惑いながらも少しずつ楽しむ姿を見て、何か新しいことに挑戦する勇気を持つきっかけになれば幸いです。次回のシオリの冒険も、ぜひお楽しみに!

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