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言葉屋シオリ  作者: 水城シオリ
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怪しいお米セシウムさんの敗北

本作は、過去に起きた実際の出来事や社会的な風潮をヒントに、フィクションとして再構成した物語です。現代社会では、情報がどのように伝わるか、またそれが人々の認識にどのような影響を与えるかが非常に重要です。本作の主人公シオリは、その「言葉の力」を武器に、目に見えない敵に立ち向かいます。この物語を通じて、言葉のもつ可能性や、過ちを認識し乗り越える勇気を感じていただければ幸いです。

「怪しいお米セシウムさんの敗北」

日本のある田舎町、静けさが広がる田んぼの中に「セシウムさん」は潜んでいた。彼は自らを「日本の新しい味」と名乗り、あらゆる食品に忍び込むことで、ゆっくりとその町の人々を支配しようとしていた。

「この町の人間どもは、俺の存在に気づかずに喜んで俺を食べる。彼らは俺の恐ろしさを知らない。むしろ、美味い米だと褒めているじゃないか!ハッハッハ!」

セシウムさんは大いに笑ったが、そこに現れたのが「言葉屋」のシオリだった。シオリは町の小さな書店を営む若い女性で、鋭い観察力と巧みな言葉の使い方に長けていた。彼女はセシウムさんの存在に気づき、「言葉の力」で彼を倒そうと決意する。


対話の始まり

シオリは田んぼの中に足を踏み入れ、セシウムさんと対峙した。

「おやおや、誰かと思えばただの人間か。」

セシウムさんは嘲笑するようにシオリを見下した。

しかしシオリは冷静だった。「セシウムさん。あなたは自分を『新しい味』だと名乗っているけど、ただの迷惑者よ。」

「迷惑者?俺はこの町の米に新たな価値を与えたんだぞ。普通の米では得られない“スリル”を楽しませてやってるんだ。」

シオリは一瞬眉をひそめたが、すぐに皮肉な笑みを浮かべた。「スリルね…。それが本当に“味”の一部なら、どうしてパッケージに堂々と『セシウム米』と書かないの?」

「な、なんだと?」セシウムさんの顔が少し曇った。

「ほら、見てごらんなさい。」シオリは自分の手に持っていた古びた新聞をセシウムさんに見せた。それは、かつて「怪しいお米セシウムさん」という表記ミスが引き起こした騒動の記事だった。

「あなたの名前は、すでに笑いものにされているわ。誰もあなたを“新しい味”なんて思っていない。ただの間違い、ただの悪ふざけとして扱われているだけ。」

セシウムさんは目を細めた。「そんなはずはない!俺は恐怖そのものだ。俺は人々を怯えさせ、そして…」

「怯えさせる?でも誰もあなたを本気で怖がっていないわ。」シオリは肩をすくめた。「ほとんどの人は、あなたを単なる『変な話題』として笑っているだけ。あなたの名前がテレビに出たときだって、みんなは真剣な顔をしながら、内心では失笑していた。怖がられるどころか、あなたは滑稽な存在なのよ。」


セシウムさんの動揺

セシウムさんは黙り込んだ。彼は自分が恐怖の象徴であると思っていたが、シオリの言葉がその自信を揺るがせた。

「……そんなことはない。俺には力がある。見ろ、俺はこの町の土に溶け込み、作物に入り込み、人々の体の中にまで忍び込むことができるんだ!」

「それがどうしたの?」シオリは即答した。「あなたがどれほど潜り込んだとしても、人々はそれを避ける術を見つけ出す。検査をしたり、輸入食品を買ったり。あなたのことを真面目に相手にするのは科学者くらいよ。そしてその科学者たちだって、あなたを恐れるというより、ただの研究対象として見ているわ。」

「くっ…!」セシウムさんは言葉を失った。

「要するに、あなたはただの『過去のニュース』にすぎないの。」シオリの声には、確信がこもっていた。「名前だけが一人歩きして、実際には誰もあなたを本気で怖がっていない。あなたの存在価値は、最初からゼロだったのよ。」


セシウムさんの敗北

セシウムさんの体が揺れ始めた。「バカな…俺が…こんな言葉ごときで…!」

彼は自分の存在意義を疑い始めると、次第にその姿を薄れさせていった。

「俺は…何だったんだ…」

最後の言葉を残し、セシウムさんは跡形もなく消えていった。

シオリはほっと一息つき、田んぼを後にした。そして心の中でこうつぶやいた。

「言葉の力は、どんな物理的な力よりも強いのよね。」

その後、町の田んぼには再び平和が戻り、人々は美味しいお米を安心して食べられるようになった。

最後まで物語を読んでいただき、ありがとうございました。本作では、「セシウムさん」という過去の騒動をモチーフに、情報の伝え方や言葉の力がもつ影響力をテーマに描きました。日々の生活で私たちは、多くの情報やニュースに触れますが、それらをただ受け入れるだけでなく、その真意や背景を考える姿勢が大切だと感じます。シオリのように、自分の力で疑問を解き、平和を取り戻そうとする姿が、少しでも読者の心に響けば嬉しいです。

また、どんなに小さな声でも、正しい言葉には大きな力があることを改めて感じていただければ幸いです。最後に、この物語にインスピレーションを与えてくださった社会の出来事に感謝しつつ、これからも真実を見極める目を持ち続けていきたいと思います。

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