第五話:かすが さえ
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そんなに自分の声はうるさいだろうか。煩わしいと言わんばかりの視線が夜になっても忘れられなかった。
瑞希にはふられちゃったねと揶揄われ、よくわからないショックを受けた涼子を逆に労わるようにして駅まで行った。正直、面と向かってああも敵意を向けられたのは生まれて初めてだった。人というものは上手に猫を被り人付き合いをするものだと思っていたので、あれほどはっきりと言われると、どう受け止めていいか涼子にはわからなかった。そもそも、あいつのがヘッドフォンから音漏れうるさいじゃんね、と瑞希が気を遣ってくれたことに小さく笑った。瑞希は途中で電車を降りていき、足を引きずる姿に心配しながらも涼子もまた電車に身を預けた。
その夜もまた涼子は夢を見なかった。二週間ほどよく眠れなかったこともあり、睡眠の大事さを痛感しながら朝日に目を覚ませばスマートフォンがまたメッセージを表示していた。瑞希だった。受信時刻は真夜中の三時頃、寝ていたらごめん、という前置きを置いてそれなりの長文が打たれていた。
心配させたくなくて言わなかったが、あれから同じ夢を何度も見て、眠れば眠るだけ鉈を持った老婆が近づいてくること。そのせいで眠れず困っていること。昨日の怪我も、何かに足を掴まれた気がすること。
ホラーが苦手な涼子に言うのは申し訳ないが、あの赤いブローチはなにかの曰く付きだったのではないか。
涼子は夢を見たとしても三、四時間は眠れていた。瑞希は眠る度に見るので一睡もできないでいるという。足を掴まれた、も睡眠不足で踏み外したのではと思ったが、それを言うほど配慮のない人間ではない。これが本当にあのブローチのせいだというのなら、どうすればいいのだろう。こういった事象に縁もなく、オカルトも全く知らない。霊感があるとも聞いたことはないが、瑞希はそれが好きだからこそある程度柔軟に可能性を見越しているらしい。
素直にどうすればいいのかとチャットを返した。眠れていないか起きていたか、すぐに既読がついて電話がかかってきた。
『おはよ、ごめんね怖がらせて。あたしもどうすればいいかわかんないけどさぁ、叔父さんに電話とか? 話聞いてみるとか』
「それはもうしたよ。よく知らないって言われたの。お母さんもおばあちゃんもそういう話しないけど、それなりに古い家だからとは言ってた」
『そうなんだ』
疲れた声色で瑞希が唸る。
『でもあたしもホラーは好きだけど、懐疑的なんだよね。実際それってどうなのってところあるし。創作でしょって思う気持ちもあるし。ネットで霊能者探してーってほどでもないんだよね』
「ホラーってそんな感じなんだ」
『一例だよ。春休み入る前にどうにかしたいなぁ、あたし突発旅行に行きたいし』
瑞希はバイト代を春休みの旅行に当てるタイプだ。足の捻挫は完治まで二週間、その間無茶をしなければいいらしい。そうだ、といいアイデアを思いついたと瑞希が言った。
『うちの大学の七不思議、噂の男子学生くんに頼ってみるか』
「それって、昨日の?」
『そう、お金かける前にタダで当たれるところに当たってみよ! というわけで涼子、お願いね』
「え!? どうして!?」
『だってあたし安静にしてろって言われちゃったし。マジで寝れなくてきついんだわ』
そうかもしれないが、昨日うるさいと言われたばかりで声を掛けにくいものがある。けれど本当に赤いブローチが原因ならば、瑞希を巻き込んだのは自分だ。半信半疑、積み上げられた不安要素に否定もできず、涼子はわかった、試してみる、と返事をした。よろしくね、と通話が切れて涼子はベッドの上で脱力をした。あの男子学生の学部も、履修内容も、何も把握していない。下手をすればもう大学に来ず、休みに入る可能性もあった。定期を買っていないので実費はかかるが、自分を奮い立たせて涼子は身支度を始めた。
大学の構内を歩き回る。カフェテリア、講義の開催されている教室、講堂。それなりに多くの学部を抱えている大学内で特定の人物を探すのは難しい。名前を知っていればもっと簡単だろうに、とベンチに腰掛けたところで、医務室のことを思い出した。慌てて行けば保険医があら、とそこにいた。
昨日の男子学生について尋ねれば、本当は個人情報教えちゃだめなのよ、と苦笑を浮かべながら今日はたぶん、二限の講義を受けているはずよ、と教えてもらえた。頭痛持ちでたまに鎮痛剤を貰いに来るらしく、なんの講義を取っているのか多少は話すらしい。今日は二限で終わりだというのでお礼を言って医務室を出た。
この時間講義は三つ。その内二つは先ほど覗いたので後回しにした最後の一つが該当だろう。チャイムが鳴る前に辿り着いたのは少しだけ端にある教室だ。ここでは民俗学の講義が行われていて、参加者数は少ない。そろりと窓から覗けば一番後ろ、角の席にヘッドフォンを首に掛けた男子学生を見つけることができた。
あと数分講義の終了を待って、出てくる学生に逆らって涼子は教室の階段を上がった。のろのろと物を片付けていた男子学生は、まるで誰かに声を掛けられたかのように顔を上げ、涼子を見た。
むっと眉が顰められ目を逸らされる。涼子はなんと声を掛ければいいのか言葉が胸でつっかえて出てこない。その間に男子学生はリュックに全てを仕舞い込み、横を通り抜けていった。
春休み前に解決をしたいのは涼子も同じ。意を決してあの、と叫んだ。教室内にいつの間にか二人だけ。さすがに声を掛けられたのはわかるのだろう、嫌そうな顔で振り返られた。
「突然、ごめん。私嶋貫涼子って言います。相談があって」
じろ、と上から下まで見られて、また視線を逸らして教壇の方へ降りていく。そちらの方が建物から出る出口が近いのだ。ねぇ待って、と涼子はその後を追いかけた。ヘッドフォンを首から耳に掛け直し会話を拒否する姿に思わず尋ねた。
「ねぇ、きみ、本当に幽霊の声、聞こえるの?」
ゆるりと男子学生の足が止まった。っち、と舌打ちをして振り返り、剣呑な様子で歩み寄ってくる姿に足を引く。ヘッドフォンを首に戻して初めてまともに会話をしてくれた。
「くだらない噂信じてんのか知らないけどな、幽霊なんて存在しないだろ」
「私も、別に信じてはいないんだけど、なんだったらホラー苦手だし」
「じゃあそんなこと口にするな、頭おかしいと思われるぞ」
ヘッドフォンを掛け直そうとする腕を思わず掴んだ。
「教えてほしいことがあるの、私オカルト全然わからないから、助けてほしいの」
「……なんだか知らないけど、ネットで探せば専門家あるんじゃねぇの? 頭の」
「本当に困ってるんだってば!」
鞄をあさって掌サイズの桐箱を取り出し、差し出した。男子学生はざっと身を引いて目を見開いた。その反応だけでも何かあるとわかった。ずいと腕を近づければまた一歩引く。
「これ、祖母の形見分けでもらったの。でも、これに触ってからなにかおかしいの」
「一度それを、仕舞え」
「私霊感とかないし本当によくわかってないの、噂が噂なだけならごめん、でも、何かわかるなら教えてほしいの」
「噂は噂だっつの」
「そんな反応してるのに?」
手に持たせようとすれば全力で腕を振り払われた。かつん、と桐箱が落ちて中から赤いブローチが転がり落ちた。あ、とそれを拾おうとして振り返る。壊れてはいないようだ。ホッとして桐箱に戻して再び振り返れば、そこに男子学生はいなかった。遠くで廊下を曲がる後姿があった。
「あいつ、逃げた!」
思わず涼子も走って追いかける。スニーカーとパンプスではそもそも速度が違う。建物だってそれなりに広い。見失ってしまい、ぐぅっと声が出た。涼子は窓から外を見張った。どこかから出てくれば、必ずこの眼前の広場を通るはずなのだ。数分待って見覚えのあるリュックが走り出てきた。
「止まりなさい、止まれ! 逃げるな!」
思わず投げてしまったペンケースが男子学生の頭に直撃した。
人が少ないとはいえ人目を集めてしまい、騒ぎに教務課の人まで駆けつけて来たので男子学生は諦めの境地でベンチにどかりと座った。何があったのか教務課職員に問われたが、まさかオカルト話だとも言えず、昨日の礼を言いたかったが逃げられてしまい、強硬手段に出たと言えば、痴話喧嘩もほどほどに、とこちらも呆れて戻っていった。
ジャカジャカと音漏れは相変わらず、ヘッドフォンを耳に当ててこれ以上の会話を拒否する男子学生に、まずはごめんと謝った。ん、と短い返事はしてくれるがそれ以上会話が続かない。鞄から桐箱を取り出して改めて尋ねようとすれば、さっと鞄を押さえられた。
「それ、出すな」
「でも出さないと話してくれないでしょ」
「……わかったから」
深いため息とともにずるずるとベンチを滑り、ヘッドフォンがずらされた。改めて男子学生の横顔を眺めた。履き古したスニーカー、丈の合っていないズボンは裾が折り畳まれていて、着ているパーカーは時期を考えてもそれだけでは寒そうだった。リュックもしっかり使い込んである。鼻先も少しだけ赤く、コートを着込んでいる涼子に比べて寒そうだった。カタカタと足が鳴っているのは貧乏揺すりではなくただ単に寒いのだろう。
「あの、よかったらカフェテリア移動する?」
じろ、と見られてここでいいのかと視線で問えば、小さく頷かれた。それがどちらの意味なのかわからず涼子は立てばいいのか、残ればいいのか、とりあえず座る位置を直した。
「で、なに」
「さっきも話したんだけど、もしオカルト、に詳しければ教えてほしくて」
「詳しくはないけど、なにを」
「おばあちゃんの形見分けを貰ってから変な夢を見るの。さっきのブローチに触った友達、昨日化粧ポーチを拾ってくれた子も、同じ夢を。あの子が見るようになってから私は見なくなったんだけど」
ふぅん、と興味なさげな声がした。こちらは真剣に悩んでいるのに、と涼子がムッとすれば、男子学生はあらぬ方向に視線を向けて、眉を顰めた。また涼子に向けて視線が返ってくると、そもそも、と体を起こす。
「あんた、誰だよ。名前じゃなくて学部な」
「英文学科、この間教養科目で会ったよね。きみの名前聞き損ねてた」
「夢診断でもしてみるか、病院行った方がいいんじゃねぇの」
夢診断はもうやった、と答え、涼子は鞄に手を突っ込んだ。男子学生はもう一度鞄を押さえた。
「同じ夢を友達も見てるし、眠れないの本当に困ってるの。真面目に聞いてくれなきゃ、出すからね」
こんな脅し文句が効くとは思わなかったが、男子学生は深いため息を吐いた。もしかして本当に呪われたブローチなのかと思い、怖くなって手を引き抜いた。バームで一応髪は整えてあるらしいが、伸びてしまったためにまとまらないのだろう。前髪を掻き上げて戻して、男子学生は呟いた。
「境 初。法学部」
「法学部なんだ、意外。ごめん、教養科目でしか会ってないから学部は違うとは思ってたけど。ええと、境くん、ペンケース本当にごめんね」
「いい」
「本当に幽霊の声が聞こえるの?」
相談事はあれど好奇心が勝った。いまだに首からはジャカジャカと音漏れがしていて少し気になるが目の前の男子学生ほどではない。
「もしそうだとしても、それの解決にはならないだろ」
それ、と指されたのは鞄だ。
「でもさっき、境くんこれ見て逃げたじゃん」
「……悪い、苗字嫌いなんだ」
「あぁ、じゃあ、えっと、初くん」
ん、と短い返事があった。男子を下の名前で呼ぶのは久々だった。英文学科の多くは女子で、教養科目で隣に座るのも女子だったので大学に入ってからそう関わることがなかったからだ。自分がもう少しお洒落だったなら気楽に話せたのだろうか。隣からぶるりと寒さに震える振動を感じ、一先ず移動と会話を済ませた方がいい気がした。
「昨日のあの子、瑞希っていうんだけど、ホラーとかオカルトに詳しくて、赤いブローチに触ってから同じ夢を見てるって言ってるんだ。もしかしたらこれが曰く付きじゃないかってことで、その、噂のある初くんに聞いてみようって……」
「何度も言うけどな、その噂が事実だとしても、解決にはならないだろ」
「何度も言うけど、私本当に詳しくないから、なんで解決しないのかがわからないの」
平行線になっている点を指摘すれば、初はポケットに手を突っ込んで体を摩った。
「声が聞こえたところで、理由がわからなきゃ解決しない」
ぶるっと大きく震え、話す声すらも若干の震えを見せている。涼子は立ち上がって初のパーカーを引いた。
「とりあえずどこかあったかいところに行こう、見てるこっちも寒くなってきちゃった」
初は逡巡し、立ち上がり、先ほど駆けて出てきた建物を目指した。その後を追う涼子へ少しだけ視線をやって尋ねた。
「お前、たばこ平気?」
「吸わないけど、喘息とかはないよ」
「……ならいい」
初が真っ直ぐに目指したのは教員棟だ。学生が来るのはゼミの一環くらいだろう。人けのない廊下は少し怖かった。昼を回った頃だというのに位置が悪いのか薄暗く、寒い気がした。初が叩いたドアは中の返事も待たずに開けられた。中からむわっと煙った空気が出てきて、思わず手で払う。薄暗く狭い部屋には本が所狭しと置いてあり、空気が悪そうだった。
「センセ、いる?」
「ハジメくん、返事を待ってから開けなさいと何度言えばわかるのかな。もし私が着替えをしていて裸体を晒していたらどうするんだい」
「ないだろ、一生」
困った学生だよ、と言いながら本で埋まった机からひょっこり顔を出したのは、講義を受けたことのない教員だった。いや、先ほど覗いた講義で話していたのを思い出す。眼鏡を掛け、ロングの髪は一つに結わえ、ぬっと立ち上がったのはやせっぽちの女だった。初は慣れた様子でソファにリュックを置いて一度窓を開け、数秒換気をしてから閉めた。次に電子ケトルに水道から水を入れた。それを入り口で見守っていれば、入れ、と初の方が首を振った。
「ええと、お邪魔します……」
「おやぁ、ハジメくんが女の子を。彼女?」
「違う。こいつは民俗学の准教授、春日センセ」
「こらこら、敬意を払いたまえ。春日冴だよ、よろしく。受講生以外が来るのは初めてだ! ハジメくん、私は濃いめのブラックでお願いするよ」
「あんた、そのうちカフェイン中毒で死ぬぞ」
涼子に対する態度とは違い、かなり打ち解けているような空気を感じ取った。法学部で必修でもない科目、個人の研究室に入れるほどの間柄、ラブロマンスの予感にドキドキし始めた。
「変な勘繰りするなよ、こいつの研究に付き合わされてるだけだ」
「いーい助手だよハジメくんは。依頼料は高いけどね」
二人からそう言われ、それにもまた疑ってしまうのだがここは黙っておいた方がいいかもしれない。後で瑞希には言うつもりだ。カチッと音がして湯が沸き、勝手知ったる手つきで初がほうじ茶のティーパックを三人分淹れ、雑に置いた。ブラック、と小さな文句が出たが初は壁のリモコンで暖房を強め、聞かなかった。春日はずずっと唇を尖らせて熱燗を飲むようにして啜り、ちらりと涼子を見た。
「それで、本当に珍しいこの状況はいったいなんだね」
「センセ好みの相談を持ち掛けられた」
「ほおぅ」
春日はコップを持って近寄り、涼子をソファへ促した。それに従って座りテーブルにコップを置けば、狭いソファにギュッと春日も座った。
「名前は?」
「嶋貫涼子です。英文学科に所属していまして」
「ほおぅ、英文学科! では英語がお得意だね」
「そうなれるように頑張ってます」
「それは感心、感心」
春日は手を揉んで、ぬぅっとその手で涼子の胸を揉んだ。
「ところで、きみ、ブラジャーの話は興味あるかい?」
突然のことに呆気に取られていれば向こう側で初が頭を抱えていて、その間に春日の手がゆっくりと涼子の胸の形を確かめるように動いた。それが脇に回ったあたりで我に返り、思い切り手を払った。
「な、なに、なにするんですか!」
「学問の話だよ」
「む、むね、胸を触っ、女同士でも、セクハラになるんですよ!」
「おや、失礼。きみは下着売り場で専門家に胸を計ってもらったことはないのかな?」
「あります、けど!」
「もう一度言おう、学問の話だ。あぁ、でも、許可も取らずに悪かったね」
春日は悪びれず立ち上がった涼子に軽い感じで謝意を示した。鞄を持って飛び出そうとした涼子の背に次いで声が掛けられる。
「民俗学准教授、専門は怪異」
何を言われたのかがわからず涼子はドアノブに手を掛けたまま振り返った。
「なぜ人はオカルトに興味を惹かれるのか。存在しないはずのホラーに怯えるのか。なぜ日本各地に、いや、全世界に怪異譚があるのか。人の生活に根差した怪異を紐解くことが、私にとっての民俗学」
「言っている意味が、ちょっとよく、わかりません」
座って、と春日は立ち上がり空いたソファを手で指し、涼子はじりじりと戻って鞄をしっかりと抱え込み胸を守って座り直した。春日は講義をするように話し始めた。
「なぜ心惹かれるのか、人の心は実のところ、異界と常に接していると私は考える。人は常になにか日常とは違う異界を求めるものなのだよ。最近で言うと小説や漫画で多くないかい? 主人公が転移、転生、前世の知識で無双する。それは人の胸に夢を与え、活力になり、憧れとなる。それだって言ってしまえば非日常を求めているからだ」
はぁ、と涼子は困惑の声を返し、春日は気にせずに演説を続ける。
「昨今流行りだしたこの風潮も、よぅく歴史を辿れば昔からあるものだ。そういったジャンルに絞らず、そもそも創作という文化が民俗学の観点からも古いものなのでね。もちろん、形は常に変化している。その変化を追うことが民俗学だ。私はその中でも、繰り返すが怪異というものに大変心惹かれている。私が実際に触れられるのはなぜそれが怪異と呼ばれるに至ったか、ストーリーを追うことでしかできない。だが、ここ数年、状況が変わった」
さっと手で指されたのは辟易としている初だ。
「ここに怪異と隔たりのない青年がいる。私は彼を窓口にしてその本質と解決を論文にまとめているのさ」
「はぁ」
「ふぅむ、民俗学についてわかりやすく説明したつもりだがね。やはりブラジャーの例がいいか。実際に身に着けているものだから想像もつくだろう」
「いえ、それはもう」
「困惑はわかる、だがね、ブラジャーは民俗学の本で本当に事例として出ているのだよ」
「センセ、こいつが聞きたいのはそうじゃない」
初が言えば、ようやく春日は演説をやめた。
「なんだというんだね」
「あんた好みの相談だって言ったろ。赤いブローチ、祖母の形見、触った奴が同じ夢を見る」
端的に、必要な情報を言えば春日が腕を組む。会話のコツはこうなのだろう。視線を受けて涼子は何度も頷いた。春日は眼鏡の奥できらりと目を輝かせた。
「ちょうど新しい論文のネタに困っていたところだ、聞かせてもらおうじゃないか」
涼子はもう一度、ここ数週間で自らと友に起こった出来事を話した。
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