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雨上ノ詩  作者: stenn


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プロローグ

新連載です。よろしくお願いします。

――お前なんかに渡すかよ。どくどくと流れ出る血も痛みも構わすに彼は見上げてにっと笑う。


 呪われろ。



 あぁああああああ。


 悲鳴が――狂ったような悲鳴が辺りに響いていた。ガタンと床に叩きつけられた美しい絵を描かれた磁気は見る影もなく粉々に砕け散る。その磁器に入っていた酒は床を濡らし、鏡のように辺りを映す。


 その水面に幽鬼の様な男の顔が映っていた。死者のような青白い顔には覇気はない。くぼんだ眼は大きく見開き、充血している。頬に張り付いた黒い髪。死人のような青い唇をわなわなと揺らしている。


 男は、割れた磁器を素足で踏みにじると近くに――まるで許しを乞うように平伏している青年に目を向けた。それはまるで憎いものを見るかのようで、辺りにいたものは悲鳴を飲み込んでいた。誰もか青年に非は無い事を知っている。それでも言い出せないのは自身に降りかかることを恐れたからだ。


 ガ――っと嫌な音が響いて男の目の前。床に剣が突き立てられ男は軽くのけぞって腰を抜かすように男を。自身の主を怯えた目で仰ぎ見る。その目は狂気そのものしか映していない。何かすれば、否。何かを言えば殺されてしまうと本能的に感じていた。


 ぐっと剣を男は慣れた手つきで引き抜いてとんと自身の肩にかける。男の足元は磁器を踏んだ為なのか血まみれである。ただ、それを気にする様子は微塵も見せず、ぺたりと血の足跡が床に付いていた。


「なぜだ?」


 低く掠れた声。それでもその声には異様な殺気と狂気が燻っている。重苦しい空気。辺りにいる人々はまるで鎖に繋がれたかのように、動くことは出来ない。


 本能的に誰もが、当事者の青年すら感じている。もう彼の――自分自身の人生が終るのだと。


 それでも一縷の希をかけて青年は乾き切った口を開いていた。いや。それも悪手なのだろうと冷やりとした思考が過る。


 なぜなら青年は弧の主の言葉に対する答えを知らないからである。何を問うているのか分からなかった。ただの――それこそ居合わせた下働き同然の文官が何かなど知りようがない。それを言ったところで通じないのは容易に想像できた。


 もはや自身の運の悪さを呪うしかない。


「な、なんの事でございましょうか?」


 上ずった声に緊張が乗る。それを冷たく見下ろす主の目には人間味が無いように感じられた。


「そうか。知らんのか。ならば――」


 ひゅつと風邪を斬る様な音。いや。斬られているのは。歪む視界は血に濡れる。耳に入ってくるのは劈く様な悲鳴。ごとりと音がしたのは何だったか。


 ぼんやりと薄れていく意識。指もなにも感覚は無い。その双眸だけが、瞬きもせず、陰惨な――これから起こるはずの陰惨な光景を眺めていた。


 やはり。と言う言葉の先から何も綴れない。ただ、ただ。悲しいと思う心だけが宙に浮いて消えていった。


「貴様らは知らんか? この国の加護はいずこぞ? 」


 呻く様な、泣く様な。喜々としているような――声が聞こえる。それは悲鳴。怒号。狂気じみた笑いが響く。次第に血で濡れていく床はすでに誰のものだったか。


 それは雨が降りやまない、ある日の夜のことだった。

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