突撃! 呪物コレクターの部屋
……今回、我々番組制作陣が足を踏み入れたのは、都内に佇む古びた一軒家。とある呪物コレクターの部屋である。
六畳一間の和室の棚に所狭しと並べられた『呪物』の数々。圧巻。相対した我々はその重苦しさに息を呑んだ。そして、驚くべきことにこの品々の主はなんと、この部屋で寝起きをしているらしい。
我々を前に不敵な笑みを浮かべる彼は一体、どのような人物なのか。
そして、この部屋の数々の呪物は本物なのか。
そしてさらに、先生は一体どのような判断を下すのか。その一挙一動から目を離すことができ――
「はいはーい、どいてどいて、ま! 黴臭いわねぇ! ほら窓開けて、あらやだお布団踏んじゃったわぁ、でもこれも臭うわねぇ、干したことあるのこれぇ?」
前原先生が窓を開けると、四月の爽やかな春の風が部屋に吹き込み
「はーい、番組オリジナルの消臭スプレーをシュッシュするだけで、はいお手軽でしょう? 布団もこのまま干しちゃいましょう!」
フローラルな香りが部屋全体を包んだ。先生監修のこの消臭スプレーは匂いがきつくないため、匂いに敏感な人にもおすすめである。
「さーてと、それにしても汚い部屋ねぇ。人形とお面と壺とこの箱は……うわ、なにこれミイラ? 男の子ってホントこういうの好きよねぇ。
うちの息子も小学生の頃にセミの抜け殻とかよく拾って帰ってきたわぁ。
ええとじゃあ、いる物といらない物に分けて、よし、このミイラはいらないわね」
「いや、ちょちょちょ」
と、ここで呪物コレクターである男がその重々しい口を開いた。そして、彼はまるで呪いをかけようとしているかのように目を見開き、手を広げたのだ。
「なーにーよぅ! いらないでしょこんなのっ。それとあんたなにぃ? 人形も女の子ばっかりだし、ひょっとしてロリコンさん?
もぉぉぉしょうがないわねぇ、じゃあ、あなたが大好きなお人形さんだけは残して他のお人形さんは捨てなさい。ただし残していいのは三つまでよ。断捨離よ断捨離! あとこのマスクはなーに?」
「……ふふっ、それはある大富豪のデスマスクで、それを身につけた者はあ、ちょ、ちょちょちょ」
「どーう? 似合う―? でもこれも何だか臭うわねぇ。もしかしてあんた、時々着けてるの? うえぇ……ん?」
と、ここで先生がスンスンと鼻をひくつかせ始めた。一体、何を探しているのだろうか。
「あ、臭いの元は棚の裏のこれねぇ! なーにぃこれー? 穴があいてるけど」
「ちょちょちょ! そ、それは……」
「あらやだなにこれホントくっさーい! 高校生の時の息子のパンツの匂いみたーい!」
「そ、それは呪いの……地球外生命体の死骸です……危険すぎるから棚の裏に隠していたのです」
「はぁ?」
先生は一言で済まし、それをゴミ袋の中へ放り込んだ。
が、カメラは衝撃のシーンを捉えていた。
スローで確認していただこう。
……おわかりいただけただろうか。
呪術コレクターが素早い動きでそれを拾い、服の中へ隠した瞬間。
「えーっと、それからこの掛け軸もカビてるわね。んー全部捨てちゃってもいいと思うけどねぇ」
「だ、駄目ですよ! そんなことしたら、ふふふ。そう、呪いがねぇ……」
「呪いぃ? そんなものあるわけないでしょう」
「とも言い切れないんですよ……このブローチの所有者はね、これまで全員死んで」
「レジンの安物じゃない。こんなの私の友達の大下さんのほうが上手く作れるわよぅ!」
「あ、あと、このミイラ、それにその人形も所有者に不幸。それも死が」
「じゃあ、あんたはなんで生きてんのよ」
「え、いや、それは、悪い呪いもあれば良い呪いもあって、そう幸運のお守りのような物もあるんですよ。ただ、使い方を間違えればそれは所有者に……」
「じゃあ、その幸運な物以外全部捨てね! はい、じゃあ片付けましょう!」
「ちょちょちょ、さ、さっきから何なんですか! 番組で紹介するからって大人しく聞いてましたけど、ふざけすぎですよ!」
「ふざけてなんかいないわよ! だからその番組のコーナーでお部屋のお片付けにきたんでしょうが!
見たことあるでしょ? 『超簡単! あなたのお部屋を整理整頓!』ってね!」
「いや、は? え? そ、そんなの聞いてないですよ!」
「あーはいはい、あなたのお母さまのご依頼できたのよぉ。息子がね、変なもの溜め込んでるから片付けてって。
もー、駄目よ? いい歳して実家暮らしの上にお母さまに心配かけちゃぁ。
うちの息子なんて今大学生なんだけどね、高校卒業と同時に早々に家を出てね」
「いや、ちょ、え? その依頼って、いつあったんですか?」
「先月か先々月じゃないかしら? ねえ、スタッフさん? ほら、そうですって」
「……母は昨年亡くなったんですけど」
「えっ……」
……おわかりいただけただろうか。
呪術コレクターが例の物を服の中に隠した瞬間。
それを先生が手に持つ、お面の陰から覗くように見えていた顔を……。
あれは、もしかしたら子を心配する母。愛なのかもしれない……。