柔らかくなった姉
わたくしの姉はとてもお堅いんですの。
わたくしはコーザント王国の侯爵家のひとつ、アルモンテ家の次女、シアミスと申します。
二つ上に姉のテルミスが、一つ下に嫡男の弟バルガスがおりますが、姉のテルミスは本当にお堅いのです。
家族や使用人にたいしても大変に厳格で、些細な間違いも指摘し改善を促す姉は、外に於いても等しく他者に厳しい方です。
知人友人に限らず、見ず知らずの他人も容赦なく指摘する姉なんですが、面倒臭いと思われても表だって不平不満が上がることはありません。それは我が家が国内でも有数の侯爵家であり、姉自身も社交界で有名な人物だからで、姉の評判は「他者に厳格で、それ以上に自分に厳しい方」というものです。
そう、姉は他者に厳格である以上に何よりも自分自身に大変に厳しく己を律しておられるのです。
今年で18となる姉のテルミスは我が家と同じく侯爵家であるガルトナント家の嫡男であらせられるオルミット様の婚約者です。
幼少の頃より侯爵家同士の政略で結ばれた婚約に、姉は将来の侯爵夫人として相応しくあるためにと、それは厳しくご自身の教育、立ち居振舞いに常に細心の注意と努力を惜しまずに育っていったのです。
勿論、我が家も侯爵家故に選りすぐられた家庭教師による教育は初めから行われておりますから、余程不真面目でなければ、侯爵夫人に相応しい教養と礼節は自ずと身に付く筈ですが、姉はそれだけでは満足せず、あれこれと習い事を増やしては身に付けていったのです。
わたくしの両親たちは穏健派で中央の要職とも縁遠く、古くから守っている広大な穀倉地を誇る侯爵領を恙無く守ることを是とする善良な方たちです。
社交界で侮られても、然程気にする様子もなく、中央での影響力も然したるものでもない。ただ、王国の胃袋の一端を担う我が家は裕福な家ですから、鉱物資源豊富なガルトナント家との結び付きは、両家の経済的な優位性をもって、他家を圧倒するものへと変えることは間違いなく、中央政界に幅をきかすガルトナント家にとって豊富な財力は、後継教育や政界への工作費用としてはいくらあっても足りないために望まれた婚約だった訳です。
とはいえ、もう一度申しますが、わたくしの両親は牧歌的で中央の事情など介さない、のんびりとした方たちですので、姉にたいして、それほど頑張らずに子供らしく伸び伸びと遊んでよいのだよと、諭していたのですが。姉から「現ガルトナント侯爵閣下の弟君たちは宰相閣下を初め、多くの要職についておられ、分家の伯爵家もまた、軍務の要人です。そのような御家に嫁ぐのに不備があってはなりませんので、わたくしの努力は将来の幸せのための投資です」と真顔で返されたのが姉が10才の時だと言うのですから、何とも言えません。
正直に申し上げれば、わたくしは姉が苦手です。というよりは家族としての関わりが希薄なのです。
使用人たちの話では姉は夜が明ける前には起き出し、祭壇にて祈り捧げると、暫し瞑想したあとは邸の庭にて走り込みや素振りなどの鍛練をしているとのこと。嫡男である弟は姉に倣い、朝の瞑想と鍛練を一緒に行っているそうですが、何故、侯爵令嬢である姉が剣の鍛練などと思ってしまいます。
有り余る才能と頭脳、高い身体能力に、何処までも高い向上心と努力を惜しまない精神性、そして、その努力に堪えうる体力まで含めて、姉は人外なのではと思ったことは一度や二度ではありません。
護身のために令嬢たちが身につける基本的な術を教わるうちに、何故か本格的に鍛練を初めてしまった姉は、今では相当に強いそうで、それでいて見た目は深窓の御令嬢そのもの。背こそそこそこに高いものの、白い肌に艶めく髪、陶器人形のように小さなお顔にパッチリとした瞳の可愛らしく美しい令嬢なんです。
それが、徒手空拳で暴漢を軽々と沈めてしまうのですから、恐ろしいものです。
魔法による身体強化と日々の鍛練の賜物よと、弟共々、わたくしたちを襲った暴漢を、護衛たちに先んじて倒された時より、弟にとっては姉はヒーローになってしまいましたけれどね。
~ ~
わたくしの婚約者はガルトナント伯爵家の嫡男であり、姉の婚約者オルミット様の弟君であるウルナット様です。
婚約者であるウルナット様は元々はガルトナント侯爵家の次男でした。ガルトナント侯爵家の分家のうち、伯爵の位を賜っていた家があるのですが、伯爵夫妻にはお子が一人しかおりませんでした。
ですが、大事な嫡男を不慮の事故で亡くしたのです。
伯爵夫妻は大層塞ぎ込み、伯爵家は断絶の危機に陥ったそうなのですが、ガルトナント侯爵閣下よりウルナット様を養子縁組し、後継とするようにとの仰せがあり、わたくしの婚約者はガルトナント伯爵家嫡男となった訳です。
そんな婚約者から、とんでもない話を聞かされたのは王都にて交流を深めるべく、観劇などをしたあとのカフェでのひとときでした。
「ガルトナント侯爵家は文官の家柄だけども、ガルトナント伯爵家は武官の家柄なんだよ。元々、侯爵家に仕える護衛に功績として与えた家が始まりで、今では兵部省の幹部を歴任する家柄なんだけど」
「えぇ、存じ上げておりますわ」
ポリポリと頬を掻きながら、ウルナット様は仰有いますけれど、それは有名なことですから、当然に知っております。
「何て言うか、兄上も武人としても強いんだよ。侯爵家嫡男という立場がなければ、騎士として活躍出来るのが間違いないくらいにね。で弟は武官の家柄に養子縁組してるとなると、騎士候補たちとの交流もあるんだけど、ベルクワ公爵の令息、マスワー様が兄上とテルミス様が揃っているところで、『女に剣をとらせて恥じない男にはなりたくないし、そんなはしたない女が婚約者など怖じ気走る』と吹聴されたそうだ」
「ベルクワ公爵家といえば、それこそ傘下に多くの武門の家を持っておいででしたよね。ガルトナント家とは対立していたと思いますが」
「あー、そうなんだ。だからといって、公に侯爵家の嫡男とその婚約者を侮辱するなんてね。兄上は当然に抗議しようとされたそうなんだけど、それより前にテルミス様がね」
「姉上が何かしたのですか」
困ったような顔をしたウルナット様に不安になります。姉は貴族家子息子女が通う学園に在籍するオルミット様と共に王立学園におります。
弟も来年にはそこに通う予定ですが、わたくしは女学園に通っているために姉の動向は知らないのです。
~ ~ ~
幾人かの方に伺ってわかったことは、ウルナット様が報告してくださった事は昨日の昼に起きたことであること。その詳細もわかりました。
姉付の侍女から聞いた話などを含めて纏めると。
まず、オルミット様が抗議のために立ち上がろうとした瞬間、姉は扇で口元を隠しながら、凛とした大声で話し始めたそうで。
「ベルクワ公爵令息が敢えて妄言を吐いて、側仕えの者たちを試されたというのに、諫言されるでも、制止されるでもなく、ニヤニヤとはしたない笑い顔を晒すだけとは。常識がないのか良識がないのか、それとも意気地がないのでしょうか? 何にせよ、そのような者に身の回りを任せ、守護を託すなど、やはり公爵令息というのは肝が据わっておいでですのね」
そう言ったんだそうだ。
これを聞いて、オルミット様は大層可笑しそうに笑っておいでだったそうで、反対にマスワー様はお顔を真っ赤にされていたらしいです。マスワー様の側仕えたちはオロオロと取り乱す者、マスワー様同様に真っ赤になり怒り出す者とそれぞれだったようなのですが、姉の発言はあくまでも「側仕えの者たちの忠誠と道義心を試された」上で「その意図を汲めなかった、諫言する度胸がなかった」側仕えの者を叱責したものです。
それがただの皮肉なことは明白ですが、然りとて、マスワー様自身が非難されたと姉を責めれば、翻ってマスワー様の発言が「ただの誹謗中傷」であったと認めることとなります。姉の配慮で「なかった」ことにし、一度は流された事柄を自ら蒸し返す愚は流石に犯せなかったと見えて、マスワー様は言い淀んでおられたそうなのですが。
護衛として侍っていたベルクワ公爵家傘下のアリム伯爵家の次男、トルド様が憤懣やる方ないといった様子で姉の方へと歩みを進めて。
「公爵令息にたいして、そのような物言い、不敬である。婦女子の分際で剣を振るうなどみっともないと図星を指されたからといきりよって」
と、的外れも大概な事を仰ったそうで。
流石にオルミット様は今度ばかりはと仲裁に入ろうとされたようなんですが。
立ち上がって、はらりと扇をふってオルミット様を制すと、そのままトルド様の前へとしずしずと歩み寄り。
「たかが伯爵家の次男坊がわたくしに不敬でしてよ。それほど女人を侮るなら、その腰の剣で見事倒してみせなさい」
と、手袋を外して、トルド様のお顔にひらひらとかけて煽ったそうで。
「わたくしにはこれがあるから大丈夫ですわ。ハンディとしては少々足りないかもしれませんが」
と、更には扇を扇いで煽ったそうで。まさに扇だけになんて言ってる場合ではなく。
護衛として帯剣を許されているトルド様は頭に血が昇り、そのまま抜剣、そして特製の鉄仕込みの扇でぼこぼこに返り討ちにあったそうです。
「女人を侮り、見下す前に腕を磨きなさい。貴方の後ろで護られる者が貴方より強いのでは、誰が安心して貴方に守護を任せられるのです」
そう言われたトルド様は咽びないておられたそうですが、聞くところによるとトルド様はご実家にて謹慎を言い渡されたそうで。
「道理に悖る理由で他者を辱しめた上に、いくら決闘を持ち掛けられたとはいえ、無手(姉は仕込みありの扇を持ってましたが)の女性に一本とるどころか、反対に一方的に倒されるとは情けない」
との理由だそうです。
また、マスワー様も事態を知った学園を取り仕切る王弟殿下より、厳しく叱責された上で数日の謹慎を言い渡されたそうで。
喧嘩両成敗で姉にも処分があるかと思いましたが、そもそもが相手方の一方的な誹謗中傷が発端で、皮肉が籠められていたとはいえ、穏便に事をおさめようとしたことは疑いないと、その上で見事に決闘で抜剣した相手を然程の怪我を負わすこともなく制圧して見せた腕前に王弟殿下自ら「お咎めなし」とのお言葉を頂いたとか。
本当に姉は何者なんでしょうか。
~ ~ ~
姉とオルミット様の学園卒業も近付く中、わたくしたち姉妹と、婚約者兄弟とで簡易的な茶会が開かれました。
オルミット様の誘いでガルトナント家の庭園にて行われる運びとなり、四阿の中、美しい庭園を眺めてわたくしたち四人は円卓を囲むように座っております。
にこやかな表情のオルミット様と微笑みを浮かべて座る姉とは対称的に、わたくしとウルナット様は緊張でぎこちない顔をしております。
オルミット様も姉同様に完璧な貴公子として社交界では知られておりますし、姉と二人共々、実は人間ではないのではと噂されておりますから、このように対面でお茶会など、気が気でないのです。
とはいえ、其処は家族どうし、和やかに会話は進みだしたのですが、わたくしのおいたティーカップが僅かに音をたてました。
カチャリとなった、その音は大変に響いて聴こえました。
そして、姉の眉間が寄ったのも、わたくしにはよく見えたのです。
姉がティーカップを流麗な所作で音もなく置くと。
「今日は鈴の音がしますのね。野鳥でしょうか、可愛らしい音色だわ」
と扇で口元を隠し仰いました。
わたくしもウルナット様も返答に困ってしまう中。
「今日は家族だけの茶会だから、そこまで過敏にならずともいいんじゃないかな。家族にまで気を張っていては潰れてしまうよ」
穏やかな声でオルミット様が姉を制しました。
「甘やかしてはいけませんわ。妹は次期伯爵家当主に嫁ぐのです。そして、その家はガルトナントの係累であり、ウルナット様はオルミット様の弟君でもあるのですから」
わたくしはここで謝罪しようと思いましたが、オルミット様にハンドサインで黙っているようにと制されます。
「テシーが私のために努力していることはよく知っているし、その努力は否定したくない。ただ、家族の前でまで、仮面を被り続けるべきじゃない。君の本当の姿を君自身が見失う前に、もっと私たちに甘えるべきなんだ」
真剣な表情で仰ったオルミット様に姉が珍しく困惑した表情で黙り込みます。
「私とて君に恥じない人間であろうと努力しているが、君の前では気を抜いてしまうし、家族にだって隙は見せる。君は誰にも弱さを見せずにいるが、それでは息が出来なくなってしまう。私は弱い君だって大好きなんだ」
なんて情熱的、とわたくしなんかは思ってしまいましたが、姉は違ったようで。
「ふざけないでくださいっ わかったような事を言われても不愉快ですっ!! 」
そう言って立ち上がると立ち去ってしまったのです。
「おっ、追わなくて大丈夫なんですか」
思わずと問い掛けたわたくしに微笑んだオルミット様はゆったりとした仕草で此方を向いて話し出しました。
「普段からは想像つかないでしょう。あんな風に激しく怒って、後のことも考えずに立ち去ってしまうなんて」
何を仰有っているのだろうと、そんなことを言ってる場合ですかと聞き返したい反面、確かにとも思ってしまいます。
「実のところは照れてるだけなんですよ。顔を真っ赤にしてましたが、テシーは甘い言葉に弱いんです。シアミスさんに、ウルナット、私もテシーも実はたいへんに弱い人間なんです。今日はそれを知って欲しくてね。ちょっと昔話がしたくて、テシーなら、しばらくしたら恥ずかしそうに戻って来ますから、ちょっと聞いてくれませんか」
全く理解が追い付かないまま、オルミット様の語る過去の話が始まったのです。
~ ~ ~
あれは、まだ8才くらいのことでね。
貴族の子息子女が集められて、王宮の庭園で交流会が開かれたんだ。
いくら貴族の子息子女といえ、まだ幼子の集まりだ。多少は礼節や作法を学んだといって、その通りに出来るものでもないし、交流会は広い王宮の庭園で行われていて、誰がどの家の子かなんて、わからないし、そもそもが子供ではそこまで気が回らない。
少し成長すれば、自分より家格の上の関係者と関わるならば注意もするだろうけれど、まだまだ習い始めたばかりの子供、しかも交流会の前半は大人たちの挨拶に付き合わされて飽きていた者ばかりだ。
やっと解放されて、大人の目もゆるくなれば、自由に振る舞うのも仕方なかったし、大人たちもそれで垣根を越えた人脈の足掛かりにとでも思っていたんだろう。
そこでね。
一人の男の子が数人に囲まれて、泣かされていたんだ。庭園の端っこで、植え込みに隠れて大人たちの目から外れてしまったんだと、今ならわかる。
何を非難されていたのかは今となってはよく覚えていないけれど、小さいとか、女みたいだとか、難癖のようなもので、切っ掛けは持っていたジュースを間違えてかけてしまった事だったと思うんだけど、何にせよ。隅に連れられ、囲まれて悪口を言われた男の子は泣いていたんだ。
その時、まだ小さくて、弱々しかったテルミスがその男の子の前にたったんだ。
とっても震えてた。目から涙を浮かべてたのにね。
「おおぜいでかこんで、なかせるなんてサイテーです」
ってね。そのあと、結局は一緒に泣かされて、相手方が手をあげようとしたところで、男の子は助けてくれた女の子を守らなきゃって、庇おうとして、直前で護衛の騎士たちに助けられたんだ。
その事があって、私は強くなろうと決意した。何があっても背に守られるのではなく、守れる者になろうと。そして、彼女との婚約を打診された時は一も二もなく頷いたんだ。
でも、再会した彼女は私以上に強くなろうとしていた。私に並び立ち、決して侮られることのないようにと。あんなに初対面で恥を晒した私を全力で信頼してくれたのだ。
私も、シアミスさん、君の御姉様も、本当は弱くて泣き虫で甘えん坊な、わりかし普通な人間なんだ。
私は、まだ男であることと、わかりやすい次期侯爵家当主という立場のおかげで、取り繕うところが少なく出来ているんだけれど、彼女は反対に侯爵夫人に相応しくなろうという重責、私と並び立ちたいという本人の想いが枷になり、苦労しているのだけれど、その苦労すら見せては弱みになると隠しきってしまっている。
どうか、その事はわかってあげて欲しい。
アルモンテ侯爵閣下と夫人も娘の不器用さに困っておいでのようだけどね。
~ ~ ~
姉の婚約者から、思いもよらない話を聞かされて、そして、どうやらわたくしだけが家族の中で姉を正しく見れていないと知って。
その時、姉が戻って来たのです。
やや不機嫌そうな顔ですが、完璧な所作で席に戻ると、オルミット様に謝罪されて。
「ウルナット様に、シア、貴女にも悪いことをしたわ。突然、声を荒げて席を立つなど、申し訳ありませんでした」
そう言って頭を軽く傾げた姉に、オルミット様が横合いから声を掛けられて。
「むしろそれで良いんだよ。テシー、僕もごめんね。自分勝手な言い分で気分を悪くさせてしまって、でも、君より泣き虫な僕より、ずーっと強くなっちゃうんだもん。この前の決闘騒ぎ、君が負けるなんて思ってなかったけど、万が一があったらと、本当は気が気でなかったんだからね。とは言え、あの流れで止めては君の名誉が傷つくし、今度は僕にも良いところをみさせてくれよ」
オルミット様の方を向いた姉は顔を赤くして。
「もっ、申し訳ありません。でしゃばってしまって」
「僕が公爵家と直接トラブルにならないように配慮してくれたんだろう。あのボンボンすら気付いたのに、護衛気取りの雑魚が勘違いしたせいで、君は何も悪くないさ」
先ほどからだいぶ口調が崩れていましたが、更に畳み掛けて口が悪くなったオルミット様にわたくしが呆然としていると。
「わたくしはただ、オルミット様に守られるだけの女でないと見せたかっただけで、本当に愚かでした」
姉は弱々しく、しょんぼりと俯いてしまいまして、ウルナット様共々、わたくしたちは口を開けて時を止めてしまったのです。
そんなわたくしたちを放置して、お二人の空間は続いていきます。
「強くて可愛くて、頑張ってくれている、僕の大好きなテシーが、皆にその勇姿を見せるなんて最高だから、愚かなんてことは絶対にないよ。ただ、僕も大好きなテシーにカッコいいとこ見せないと、愛想つかされちゃうかもしれないだろう」
今度は満面の笑顔からしょんぼりとした表情への変化を見せつつオルミット様が仰有って。
「愛想尽かすなど、あり得る訳がありません。わたくしはオルミット様を慕っているのですから」
そう言われて、何故か少し意地の悪い顔になったオルミット様は。
「本当に、本当に愛してる? 」
と、顔を近付けて仰って、姉は茹で蛸のようになりながら。
「もっ、勿論です。何度もお伝えしてますわ」
「なら、愛してる、大好きオルミットって」
「妹もウルナット様もいる前で、そんな恥ずかしいこと出来ませんわっ」
「ちっ、覚えてたか」
「もうっ、あんまりふざけないでください」
お腹いっぱいになるほど、痴話喧嘩なのか、イチャラブなのかわからないものを見せつけられたわたくしは。
「御姉様はいつからスライムになりましたの」
なんか、意味不明なことを言ってしまったのです。
いえ、悪口ではないのです。金剛石より硬いと思っていた姉が、なんか婚約者にふにゃふにゃにされているのを見て、嬉しい思いも、姉のことを理解出来ず申し訳ない気持ちも、何より、見たことのない姉に困惑する気持ちも、もうごちゃごちゃになった結果。
姉がスライムのようにふにゃふにゃになってる。
という、ふざけてるとしか思えない感想が口をついただけなのです。
「なんですか、シアはわたくしを何だと思ってますの」
そんな風に頬を膨らませる姉を見て、わたくしは本当に良かったと思うと同時にオルミット様に感謝したのです。
「ウルナット様、わたくしも是非ともスライムにしてくださいね」
照れ隠しに意味不明なことを言って腕に抱きついたわたくしに、ウルナット様は困惑して、おろおろし。オルミット様は爆笑して。
御姉様は。
「まぁ、お熱いわね。二人が幸せなら、わたくしも嬉しいわ」
と。
わたくしも御姉様が幸せなら、とっても嬉しいですわ。
いつの間にか柔らかくなった姉を見ながら思ったのです。
良かったら感想くださいщ(´Д`щ)カモ-ン
こういうお話は巧く書けないので、ご意見などバシバシ貰えると嬉しいです。