チェックメイト!
「チェックメイト」
頭を撃ちぬいた標的が倒れ込むのをスコープ越しに眺めながら、そう呟く。
俺はある国の情報機関に所属する暗殺者。
軍に所属していた時の狙撃の腕前を買われ、情報機関にスカウトされた。
スコープから眼を離し使用した銃をその場に残して直ぐにその場から離脱。
徒歩で狙撃ポイントとなったビルから遠ざかり俺と情報機関を繋ぐ連絡係に電話する。
「終わった」
「良くやった、報酬は何時もの口座に振込む」
それを聞き直ぐにスマホの電源を切った。
前の暗殺を行ってから半年程経ったある日、連絡係から電話が来る。
次の仕事が決まったのだろう。
西の大国に隣国の独裁者である最高指導者が表敬訪問するから、そいつを殺れと指示された。
西の大国の首都に潜入し、情報機関が用意したタワーマンションの最上階の部屋に侵入してそこで待機。
この部屋の主は家族揃って長期のバカンスに出かけているとの事。
階下や他の部屋の住民に気が付かれないように音声を消してテレビのスイッチを入れる。
おかしい?
表敬訪問する筈の最高指導者のニュースが放送され無い、放送されているのは首都がロックダウンされたというニュース。
マンションの窓から眼下を見下ろす。
白い防護服を着込んだ兵士や警察官が街の中に溢れている。
クエスチョンマークを頭に浮かべていたら私用のスマホに着信があった。
電話に出る。
「お前は局長に嵌められたんだ逃げろ」
電話はそう告げると直ぐに切れた。
やっぱりそうか、俺は前局長にスカウされ重宝されていた、現局長は前局長と仲が悪く前局長に重宝されていた俺を疎ましく思っていたのだろう。
点けっぱなしのテレビのニュースを見ながら逃げる裁断をしている俺の目に、今流されているニュースが映る。
この国の国家主席が北の大国との会談の為に政府専用機で出発するというニュース。
出発する空港はこのマンションから6キロ程離れているが十分視認できる場所。
国家主席が搭乗した政府専用機が離陸した直後、俺は持っていたマクミランTAC−50対物ライフルの弾5発を専用機の操縦室に撃ち込んだ。
専用機は姿勢を崩し空港の先に墜落。
「チェックメイト!」
現局長は知らない事だが、俺は愛国心なんてものは持って無い。
亡くなった前局長に借りがあったんで情報機関が依頼する暗殺を引き受けていただけ、国家主席が殺されて所属する国と西の大国との関係がどうなろうと、第三次世界大戦が始まろうと知ったこちゃ無いんだ。