1.農民、呪印を刻まれる
異色の物語になりそうですが、新たにお楽しみ頂ければと思います。
「フーヤ! これも食うか?」
「いただきます!! いやぁ~、この肉も最高っすね!」
ロザヴィ村は牛舎や養豚場が多くを占め、開放的な牧草地が広がる村だ。
ここでは家畜の肉が豊富にあり、そのほとんどが村外れの食糧倉庫に蓄えられている。
村では多くの農民が家畜の世話をしているが、この俺フーヤ・オルルは倉庫管理を任されていた。
管理と言っても何かをするわけでは無い。
やることといえば、虫を追い払ったり腐らせないようにするだけ。
つまり体力も必要無ければ、家畜暴走を抑制する魔法も必要としないという、とても楽な役目である。
ロザヴィ村で暮らす農民たちは、魔力を有している者ばかり。
魔力を消費して豊かな牧草地を維持し家畜を育てているせいか、積極的に肉を食べる者は多くない。
家畜からの恵みに感謝しているとかで、食糧倉庫の肉に手をつけたくないのだとか。
そうなるとどうしても、長く置いた肉を腐らせてしまいかねない。
それは避けたいとかで、食べる役目として俺が任命されたわけである。
一日の流れとしては食糧倉庫を見つつ、周りの草むしりをして肉を食べる――という流れだ。
肉は村の人たちの好意でありつけられている。
中には俺の食べっぷりを見たくて、内緒で分けてくれる者もいた。
農民としてはどうかと思うが、肉を管理するというのも大事な"仕事"でもある。
そして新たな肉を運んで来た村長の許しを得て、今日も美味な肉にありつくことが出来た。
「相変わらず食べっぷりがいいが、家畜への感謝を忘れるなよ?」
「分かってますって!」
とにかく美味しい肉が、毎日食べ放題だ。
そうなると自然の成り行きで、肉付きのいい体つきとなってしまう。
村長の言う感謝とは、食べてもいいが控えろという意味が含まれている。
「いいや、フーヤからは感謝が全く感じられないな」
「美味しく頂いてますよ? それの何が悪いん――」
「だらしないな、本当に……。魔力も体力も無いとはいえ、嘆かわしいことだ」
村長は俺の体つきを眺めながら、嘆き出した。
どうやら太りすぎるまで食べたことで、感謝を怠ったと思われたらしい。
「そんなこと言われても……」
「フーヤ・オルル。お前には戒めとして、"呪印"を刻む」
「――えっ?」
魔力の無い俺にはピンと来ないが、村の農民の多くは"印"を有しているらしい。
主に魔法が使えることを意味する印で、水を出したり風を起こしたりといったものになる。
印には魔法の加護の他にも農具を使いこなす技能や、万が一の場合の武器使用が出来る印もあるのだとか。
もっとも、ウリデレス帝国支配下にあるロザヴィ村に攻めて来るような輩は、まず存在しないわけだが。
それにしても"呪印"というのは聞いたことが無い。
言葉からして、良くない感じがする。
「この呪印により、ロザヴィ村の者全てがお前をそういう目で見ることになる」
「どういう目で?」
「……呪印を見れば、誰もお前に肉を与えて甘やかすことが無くなるだろう」
「そ、そんな!?」
――俺はこの日、納得の出来ない不名誉な"呪印"を刻まれてしまった。
しかもよりにもよって、腹の部分に。
それくらい、肉付きのいい体になってしまったということになる。
刻まれたのは、【暴食の呪印】だ。
"食べすぎる"というそのままの意味だが、呪われたわけでもないのでそこは安心した。
「言っておくが、呪印では魔法は使えんぞ。元々魔力が無いうえの呪印だ。出来ることは限られるだろうな」
「じゃあ何が出来ると?」
「手作業で水まきだ。後はそうだな……肉は食べさせられんが、草ならばいくら食べてもいい! 暴食ならば、どんな草でも食べられるだろうからな」
食糧倉庫の管理から外して、牧草地の水まきを手作業でさせるらしい。
さらに屈辱的なのは牧草地の草を食べろとか、暴食の意味をはき違えている。
これは事実上、ロザヴィ村にいられなくなるという意味だ。
いたところで草しか食べられないなんて、絶望的すぎる。
「フーヤ。ワシは牛舎の掃除に戻る。倉庫に鍵をかけて、牧草地へ向かえ!」
「……分かりましたよ」
何故こうなったんだ。
美味しい肉を管理していたついでに、多めに食べていただけなのに。
このままでは美味しい肉が食べられなくなってしまう。
こうなったら、いっそのことロザヴィ村を出るか。
しかし行く当てなんて無い。
魔力と体力がゼロの俺はとてもじゃないが、村の外に出ようものならすぐに死んでしまう。
ここは素直に反省して、村の為に頑張るしか無さそうだ。
そう思いながら食糧倉庫に鍵をかけ牧草地へ向かうことにすると、村のあちこちから黒煙と赤い炎が上がっていることに気付いた。
「な、何だ? 火災か!?」
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