第二百六十六話 ジュノーの行方
『ラウダンジョン社』の記者、トビアス視点となります。
西の森にて大蛇を見つけた俺は、急いでランダウストへと戻ってきた。
未だに軽く震える体を抑えつつ、とりあえず合流したいためジュノーを探して回る。
街に残って多方面を当たると言っていたが、行先に思い当たる節は一つもない。
ただ、ジュノー自身に大したコネがあるとは思えないから、ダメ元で大企業やお偉いさんのところに当たっている可能性が高いか?
そういうことなら各ギルドや、大手新聞社に情報屋が濃厚。
一番影響力のある町長のところは先ほど断られたばかりだから、この内のどこかを当たっているとは思う。
同業者の新聞社はジュノーの性格上、後回しにするだろうから……ギルドから行ってみるか。
ジュノーの居所に無理やり目星をつけた俺は、まずは現在地から一番近くにある魔導士ギルドへとやってきた。
建物自体はあまり大きくはないが、しっかりと警備兵は配置しているみたいだな。
あの警備兵に話を聞いてみるか。
「すまん。ちょっと聞きたいことがあるんだが、さっきここに変な女性が来なかったか?」
「ん? ……ああ、ついさっき記者を名乗る女が来たぜ」
「ほ、本当か? そいつは今どこに?」
「そりゃ追い出したよ。舌打ちしながらあっちに消えていったけど、あんた知り合いかい?」
「んー、まぁちょっとした知り合いだな。情報ありがとう。恩にきる」
いきなりビンゴだ。
それにしてもジュノーのやつ、やっぱりアポなしで突撃して回っていたか。
こっちとしては足取りが掴みやすくていいんだが、さっきみたいに面倒な揉め事を起こしていなければいいんだが。
とりあえず教えてもらった方向から考えると、メインストリート方面だな。
警備兵がついさっきと言っていたことを考えると、距離的に商人ギルドが有力か。
俺は小走りで魔導士ギルドを後にすると、急いで商人ギルドへと向かった。
うーん……。パッと見た限りではジュノーの姿は見当たらない。
ここで見つからなければ、単独で動いて情報の共有に回った方が早いかもしれないな。
内心いないと思いつつも、先ほどと同じように商人ギルドの前にいる警備兵に声を掛けてみることに決めた。
流石に商人となると金があるのか、魔導士ギルドにいたおっさん警備兵とは違い、若く体格の良い警備兵が四人も配置されている。
「すまん。ちょっと聞きたいことがあるんだが、ここに変な女性は訪ねて来なかったか?」
俺は先ほどと同じような質問を体格の良い警備兵に訪ねると、思い当たる節があったのか手を叩いて反応した。
「ああー。変かどうかは分かりませんが、つい先ほど記者を名乗る女性が中に入って行きましたよ。ここで足止めはしたんですが、何やら副ギルド長の知り合いか何かのようですぐに通されてましたね」
「ん? 副ギルド長の知り合い……?」
妙だな。
あいつにそんな伝手があるとは思えない。
ただ、このタイミングで記者を名乗る女性なんかジュノー以外にいないはず。
「知らない人は滅多に通さないので、恐らくそうだと思いますよ。……あなたも副ギルド長のお知り合いなんですか?」
「いや、俺は副ギルド長は知り合いではないが、その女性とは知り合いで今探しているんだ。悪いが、確認だけでも取れたりしないか?」
「今連絡を取れるかどうかは分かりませんが、中の受付で話して貰えればもしかしたら伝えて貰えるかもしれません」
「そうか、情報提供助かった。受付で訪ねてみるよ」
しっかりと受け答えをしてくれた警備兵にお礼を伝え、俺も商人ギルドの中へと入ることに決めた。
扉を押して中に入ると、目が痛くなるほど煌びやかで豪華絢爛な内装が目につく。
商人ギルドには初めて入ったが、今すぐにでも出たいほど俺には似つかわしくない場所。
ジュノーも当然、商人ギルドの副ギルド長なんかとコネがある訳がないと思うんだがな。
強い疑念を抱きつつも、俺は気の良い警備兵に言われた通り受付へと向かう。
「すまん。さっき女性が副ギルド長を訪ねてこなかったか?」
「はい。つい先ほどお通し致しました。……その方から伝言を預かっておりまして、貴方様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「俺か? 俺はトビアスというものだ」
「トビアス様ですね。……はい、確認が取れました。どうぞ応接室まで案内いたします」
ここに女性が訪ねて来たかを聞いただけなのに、俺はトントン拍子で中へと案内される。
起こっている事態に対しての疑問が大きいが、こうなってくると、ジュノーは本当に副ギルド長と面識があるようだな。
ジュノーの意外な人脈の広さにちょっと悔しさを感じつつ、俺は受付嬢の後を歩いていく。
「失礼致します。トビアス様をお連れ致しました」
商人ギルドの二階。
『ラウダンジョン社』とは比べものにならない、豪華な応接室へと案内された。
そんな広く綺麗な応接室には、俺と同じく似つかわしくないジュノーの姿と、如何にも高価そうな服を身に着けているまんまる体型の男性の姿がある。
「おお! ご苦労様。君はもう戻っていいぞ」
「はい。失礼致します」
受付嬢は一礼すると、俺を置いて来た道を戻っていく。
残された俺はジュノーの座っている隣まで行き、ゆっくりと腰を下ろす。
「あら、思ったよりも早かったわね」
「お前が目立つ行動をしてくれていたから、簡単に探し出せた」
「……それで何か見つけたの?」
「ああ。とんでもないものをこの目で見て、急いで戻ってきたんだ。……それより、この状況はどうなってるんだ?」
「さあ。私にもさっぱり分からないわ」
「は?」
全く意味が分からない。
この待遇的にアポを取って来たのではないかと思っていたが、ジュノーの反応を見る限りでは違うのか?
ただ流石に、押しかけただけの奴にする待遇では決してない。
「私も本当についさっき来たばかりなのよ。アポもなしで、ダメ元で来たのに応接室にまで通して貰ったって訳。……てっきりトビアスが絡んでいると思っていたんだけど違うのね」
「…………ああ、俺も何も知らん」
軽く顔を見合わせて、互いに苦笑いを浮かべる。
あまり良い予感はしないが、話も聞かずに通してくれた理由はこの副ギルド長の口から直接聞くしかないようだ。





