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第一話 追放

 

 俺の名前はルイン・ジェイド。十四歳。

 出身はドノの村と言う辺境にある小さな村なのだが、今は王国五大都市にも数えられているグレゼスタと言う大きな街に住んでいて、そこで治療師ギルドの職員として働いている。


 辺境の村出身で伝手もなければコネもなかった俺が、何故こんな大きな街で働けているのかと言うと、それは俺の発現した‟ギフト”が希少なものだったからだ。


 ギフトと言うのは、十歳になる誕生日にどんな人にも発現する、神様からの天恵とも言われているもの。

 一般的なギフトは、強烈な一撃を放てるようになる‟【スラッシュ】を覚える”や、火の玉を作り出せる‟【ファイヤーボール】を覚える”と言った、魔力を使うことで使用出来るスキルを覚えることを指す。


 大抵の人はギフトによって、こう言った普通のスキルが使えるようになるのだが、この世の中には極稀に、後天的には使えるようにはならないギフトによってでしか覚えることの出来ないスキルが存在する。

 そのギフトでのみ、覚えることのできるスキルは通称‟レア”と呼ばれている。


 レアの大きな特徴の一つとして上げられるのは、スキルの使用に魔力を使用せずに扱えること。

 例えば、‟魔法の習得が早くなる”や‟全ての装備を身につけることができる”などの戦闘において強力なスキルや、‟相手の魔力量が見えるようになる”や‟明日の天気が分かるようになる”等の非戦闘系のスキルまで、非常に幅広く存在する。

 幅広いだけに‟レア”だとしても、使えないスキルであることは多々あるのだが、俺のギフトにより授かったスキルは‟レア”であり、割りと実用的なものであった。

 

 その名もスキル名【プラントマスター】


 鑑定をされれば、ある程度はどう言ったスキルなのかが分かるのだが、鑑定で分かったのは文字通りこれだけ。

 最初はあまりの不明さに、ハズレスキルだと思われていたのだが、後にこのギフトが植物の鑑定を行えるものだと分かり、‟レア”であり多少使えるスキルだと判明した。


 ‟レア”であることが発覚してからはとんとん拍子で物事が進んでいき、俺の意思とは関係なく国からの指示によって、今働いている治療師ギルドへの就職が決まったのだ。

 

 父親は俺が物心がつく前に他界し、母親はそんな俺を女手一つで育てるために無理をして、俺が九歳になる前に死んでしまった。

 そこからは幼いながらも村の皆の手伝いをしながら、なんとか食いつないで生きてきたため、治療師ギルドの職員として働くことに俺の意思は反映されていなかったものの、俺にとっても非常に良い話であった。


 唯一の心残りがあるとすれば、両親の眠っているお墓参りが出来ないことぐらいだが……生きていくためにはそんなことも言っていられないからな。



 そんなこんなで約五年。

 スキル【プラントマスター】を用いて、この治療師ギルドで使う薬草を仕分ける仕事をしてきたのだが、環境はお世辞にも良いものとは言えなかった。

 その大きな原因は、この治療師ギルドに蔓延っている強い選民思想。


 それもそのはずで、治療師と言うのは高い専門知識が必要とされるため、時間にもお金にも余裕のない平民ではまずなれない。

 そのため、この治療師ギルドの職員には、俺以外貴族しか存在しないのだ。

 だからこそ差別の矛先が全て俺だけに向き、想像を絶するほどに虐げられてきた。


 全ての雑用はもちろんのこと、ストレスの捌け口として毎日のように罵詈雑言を浴びせられ、更には新ポーションの治験で死の淵を彷徨った経験も少なくない。

 それほどまでに、辺境の村出身の俺に対しての当たりは強かったが、ただギフトが‟レア”だったと言うこと以外、何も持っていない俺には逃げると言う選択肢もなかった。

 少ない賃金でただ生き長らえるためだけに必死に働いていた俺だったが、とうとうそんな日々も終わりを迎えることとなる。



 前日も押し付けられた溜まりに溜まった雑用を片付けたため、殆ど睡眠もとれていない中、俺は朝早くからギルド長であるブランドン・ゲイジに呼び出されていた。

 いつものようにいびられると思いつつも、俺は重たい足を必死に動かしてギルド長室へと向かう。


「失礼します。ジェイドです」

「入っていいぞ」


 4回ノックしてから名前を告げると、中からギルド長の低い声が返ってきた。

 ただ、いつものような不機嫌さは声音から一切感じなく、逆に少し嬉しそうな声音のように感じる。

 それがまた不気味なのだが、考えても仕方がないため、一度深呼吸をしてから扉を開けた。


「ルイン。よく来たな」


 ギルド長は声音でも感じたように、珍しく機嫌が良さそうで表情も明るい。

 それに初めて俺のことを名前で呼んだ。

 いつもとのギャップに内心恐怖していると、俺の心中など関係なしに続けてギルド長が話を始める。


「いきなり本題なのだが、ルインは今日で十五歳だったよな?」


 ギルド長にそう言われ、机に置かれているカレンダーをチラッと確認すると、確かに今日は俺の誕生日だった。

 母親が死んでからはまともに自分の誕生日を祝うこともなくなっていたし、誕生日なんか気にする暇もないほど忙しい毎日が続いていたため、ここ数年は誕生日が数日過ぎてから年を一つ取ったことに気づくのが当たり前の日々を送っていた。


「そうですね。確かに今日は十五歳の誕生日です」


 今日が誕生日だと言うことに気がつき、先ほどまでの恐怖心が一気になくなったため、俺はハキハキと返事をする。

 ギルド長が珍しく機嫌が良さそうなのは、俺の誕生日を祝ってくれるからだろう。


 十五歳と言えば一般的に成人と呼ばれる年になる。

 こうして成人になった年だけでも祝ってもらえるのならば、約五年間、虐げられながらも身を粉にして働いていて良かったと俺は初めて思えた。


「そうかそうか。やはり今日がルインの誕生日だったか! ……よしっ!それじゃ、お前は今日でクビな」


 満面の笑みでそう言い放ったギルド長。

 祝われると思っていた俺の想像とは真逆の言葉に、思考が上手く回らず全身が硬直した。

 俺の聞き間違えではないのかと、何度も先ほどのギルド長の言葉を脳内で思い返すのだが、やはり何度思い返しても‟お前はクビ”と脳内で反響する。


「お、俺がクビですか……?」

「ああ、そうだ。……ったく、本当にトロい奴だな。一度言われたら理解しろ。わざわざ同じことを聞き返すな」

「ちょっと待ってください! 俺が何をしたって言うんですか! ずっと文句も言わずに働いてきたのに……い、いきなりクビだなんて納得出来ないです!」


 俺は初めてギルド長に声を荒げて反発した。

 反発、反論することと声を荒げることは、自分の中で絶対にしないこととして決めていたのだが、流石の俺でもこれだけは納得が出来ない。

 この五年間を振り返っても、俺はこの治療師ギルドにとってデメリットになることは、絶対にしていないと自信を持って言える。


「ふっ、クビの理由か? そんなのお前が農民の出だからに決まってるだろ。国からの命令で仕方なくお前を雇っていたが、十五歳を迎えた今、その制約はなくなったんだよ」


 ギルド長の口から発せられた衝撃的な言葉に、なにも言葉が出ない。

 農民生まれだからクビ。

 こんな理由で納得なんか出来るはずはないのだが……だからこそ反論することも出来ないのだ。

 だって、俺自身の生まれ以外に非はなかったと言うことなのだから。


「それと、これは親切心で教えてやるが、国へのお前の評価は毎回最低ランク評価で送っていたから、何処もお前は雇ってはくれないだろうよ。さっさと荷物をまとめて故郷に帰り、農民は農民らしく辺境の地で土弄りでもしててくれ。生まれながらの負け犬君」


 楽しそうに下卑た笑みを浮かべながらそう告げてきたブランドンに、激しい怒りを覚える。

 ……ただ、俺にはこの怒りをぶつける度胸もなければ、勇気もない。

 ブランドンが言う通り、俺は根っからの負け犬。

 下唇を噛み締める力だけが強くなり、唇が裂けるように血が流れる。


「それじゃもう行ってもいいぞ。……あっ、今日中には荷物をまとめて寮からも出て行けよ。さもなくば、不法侵入で兵士にしょっぴいて貰うからな」

「……………………分かりました」


 なにも言い返せず小さく返事をした俺は、背を向けて退出することしかできない。

 ギルド長への怒り、これから先への不安、自分への情けなさに無力さ。

 色々な感情がごった返し、吐き気がしてくる。


「おいっルイン! 何の知識もない農民を雇って世話してやった、俺に対してのお礼はどうした?」

「…………あ、ありが、とう……ございました」


 想像を絶する屈辱的な気持ちを押し殺しながら、心にもないブランドンに対してのお礼を言い、ギルド長室を後にした俺はそれから間もなくして、追い出されるように治療師ギルドから出て行くこととなった。




数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、本当にありがとうございます!

良ければ、ブクマをして頂ければ幸いです<(_ _)>ペコ

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― 新着の感想 ―
[一言] 別の作品で著者のこの作品のことも知りました。面白い作品を連載していただき、ありがとうございます。^_^
[気になる点] あえて言うと読み始めたばかりなので継続して読むかは未定ですが… 作品名の『“』最弱”と『‟』最強”で使われてる記号が違うのが凄く気になります…
[気になる点] 追放系って知能デバフひどい。理由が小学生レベル
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