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最先端占い

作者: 村崎羯諦

「ようこそ、最先端占いベンチャー企業『フォーチュリア』へ。佐々木様は新規のお客様でお間違い無いでしょうか」


 予約日時ぴったり。私が六本木に居を構えるオフィスにたどり着くと、受付の男性がにこやかに微笑みながら出迎えてくれた。男性が受付横に設置されたタブレットを手渡してくる。占いは先払いとなっておりますので、コースを選択し、QRコード決済をお願いいたします。男性の言葉のまま、私はタブレットを操作してコースを選択し、そして表示されたQRコードを読み取り、決済を行った。


「スタンダードコースですね。承知しました。本社は新規のお客様に限り、本社の占い技術についての説明を簡単にプレゼンをさせていただき、その後占いの結果をお伝えするという形を取っております。お時間の方はよろしいでしょうか?」

「問題ありません。私もこの会社の占い技術について関心がありますから」


 受付の男性がにこりと微笑み、中へどうぞと占い部屋へと案内してくれる。綺麗に清掃された廊下を通り、数ある部屋の一つに案内される。よくある占いの館とは180度異なる小洒落た空間。明るい白昼色の照明がつき、部屋の隅には観葉植物が置かれ、部屋の奥には大きな窓が取り付けられている。オカルト的な雰囲気ではごまかさず、あくまで占い技術のみで勝負する。そんな姿勢が表れている気がして私は好感を持った。


「HPに記載している通り、我が社は東大の人工知能を研究する若手研究者が4年前に立ち上げたベンチャー企業となります。人工知能の知見を備えたデータサイエンティストによる、最先端情報技術を駆使した占いをサービスする国内唯一の企業であり、昨年には経済産業省から日本ベンチャー大賞を受賞させていただきました」


 部屋の壁にプロジェクターからスライドが投影される。見ている人間に直感的に内容が伝わるような配色、および文字の大きさを考慮されたスライド。受付の男性がポインタをうごかし、次のスライドが次のページに移っていく。


「今までの占いは各占い師の技量によるものが多く、またその効果や占いの根拠が外部には公開されないために、極めて封鎖的、かつオカルトチックなものでした。我が社はそのような後進的な占いに終止符を打ち、オープンで、なおかつデータに基づいた占いを提供することで、占いの質を向上させ、ひいては人々のクオリティーオブライフを下支えする、そのような理念を持っております。そして、それを実現するための技術として、我々は人工知能技術、専門的な言い方をするならばディープラーニング技術を採用しています」


 スライドが移り変わり、人工知能をモチーフにしたイラストがでかでかと表示された。


「ベイジアン・ディープラーニングモデルをベースに占いに特化した独自の学習モデルを構築し、劣モジュラ最適化アルゴリズムを組み合わせることでより精度を上げることに成功しました。このモデルに関する論文は国際的な論文雑誌に掲載され、国内外で高い評価を受けております」


 スライドが変わり、論文の表紙を表しているであろう画像と掲載された雑誌についての簡単な説明がスライドに表示される。私はその技術力の高さに感心しながらも、手をあげ、質問をぶつけてみる。


「聞きかじりの情報で申し訳ないけれど、学習モデルを構築するには膨大なデータが必要だって聞いたことがあります。それは一体どうしているんですか?」


 男性は待っていたと言わんばかりの表情でうなずき、「おっしゃる通り、人工知能技術を遺憾なく発揮させるためには膨大なデータが必要となります」と同意してみせる。


「我々は今までの占い予測およびその正否、すなわちその占いが当たったかどうかということですね、それに関するデータを大量に収集しました。我々と同じような占い業者だけではなく、テレビや雑誌の最後に掲されているような占い、占い付き駄菓子、神社のおみくじ、ありとあらゆる占いに加え、その占いを受けたその後の本人の生活の質に関する大量のデータを収集し、活用しています。どのような手段でとなると営業秘密となりますが、とにかく膨大なデータを集めることができ、なおかつそれは今私たちがこうして会話している間にも進められています」

「ちょっと待ってください。占いの予測に関しては理解できるとしても、占いの結果が当たったかなんてどうやって判断しているんですか? 例えば『良い日になるでしょう』っていう予測があったとして、何を持って『良い日』だと判断するかが必要になるわけじゃないですか。 AIに予測と結果を投入する時、その結果に対する評価は人間が与えないといけないはずです。その評価の時点で間違っている場合、どんなに大量なデータがあったとしても、それは何の意味もないのではないでしょうか?」

「もちろん、それは我々にとっても大きな課題でした。そのため、我々の主観的な判断が価値観、および人生観が反映されないように、可能な限り客観的かつ定性的な判断が可能となる評価基準を複数用意し、なおかつ内在差別的な価値観を除外するために国際的基準を満たす倫理的な項目をリストアップいたしました。もちろん、何をもって良い、あるいは幸せと定義するかはもはや哲学的な問題ですが、それでも我々は可能な限り科学的かつ客観的な指針を準備できていると自負しております。もちろん、我々がそう言っているだけといっても信頼できないかもしれないので、我々のHP上において、採用している評価基準を常に開示しております」


 隙のない意見に、私は満足げにうなずく。私は驚嘆だけはなく、一種の感動さえ覚えていた。これこそ、この科学的かつ先進的な占いこそ、私が求めていたものだった。では、技術的な話はこれくらいにして、実際に占いを行いましょう。男性が満足げな私の表情を見ながら、そう提案する。


「実はこの説明をしている間にも本社が所有するモデルは占いの演算を行なっており、もうすぐその結果が返却されます。お客様が予約時に入力した名前や住所、年齢だけではありません。受付からこの部屋に来るまでの動き、タブレット入力時に採取した指紋や虹彩といった生体情報、観葉植物に紛れて設置されたカメラで撮影を行なっていたお客様の挙動、および質問内容。ありとあらゆる情報を用いて、お客様に特化した占いを計算しているのです」


 すばらしい。私は思わず声を漏らしてつぶやいた。若い男性がうなづき、そして自分のパソコンを見て、「結果が返ってきました」と私に教え、スライドを次のページに進める。


「準備はよろしいでしょうか?」


 男性の問いかけに私は力強くうなづく。生唾をごくりと飲み込む。そして、勿体つけるようにゆっくりと男性がポインターのボタンを押し、そして、投影されたスライドに、最先端技術を駆使して導き出した答えが映し出される。


「我々の占い技術によって導き出された答えはこうです。今日のお客様のラッキーアイテムは……ピンクのキーケースです」

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