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万年2位だからと勘当された少年、無自覚に無双する【WEB版】  作者: あざね
第20章

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5.簪と、記憶。









「エリオさんが戻ってきたんですか!?」



 しばらくして、リナが慌てた様子で宿にやってきた。

 肩で息をしている彼女は、壊れた建物の中をしきりに見回している。そして、すでにエリオさんが去った後だということを確認して、肩を落とした。

 寂し気な表情を浮かべて、強く拳を握りしめる。



「リナ……」



 あまりの落胆ぶりに、どう声をかけたらいいか悩んでしまった。

 自身の姉との繋がりを持つ、その最期を知る相手――リナにとってのエリオさんは、特別な存在に違いない。ボクはまた倒れたアルナの介抱をしながら、眉をひそめた。


 どうすればいいのか。

 どうすれば、エリオさんを救うことができるのか。


 それを必死に考えていた時だった。



「ん、リナの髪飾りって……」



 ふと、少女の髪にある飾りが気になったのは。



「私の、髪飾りですか……?」

「それって、もしかしてこれと同じものなのかな」



 ボクはエリオさんが反応を示した髪飾りを取り出し、リナにみせた。

 彼女も髪飾りを外して、こちらに差し出してくる。

 すると、すぐに分かった。



「これって、もしかしてリナのお姉さんの……?」



 二つは微妙に異なるものの、まるで双子のようにそっくりだと。

 こちらの問いかけにリナは首を縦に振る。

 そして、こう言った。



「はい、お姉ちゃんの形見です。それは、まさか――」



 震える声で。



「エリオさんの、髪飾りですか……?」









『まったく、エリオさまも女の子なんですから! 見た目には気を遣わないとダメなんですからね。ほら、こっちにきてください!』

『いや、あの……セナ? アタシは、本当にこういうのは……』

『だーめーでーすー! 前にも言ったはずですよ、エリオさまは美人さんなんですから! 綺麗にしていないと罪です!』

『罪って、そんな大げさな……』



 楽しい会話が、聞こえてくる。



『ほら、先日買った簪があるでしょう? 髪を結ってあげますから、こっちにきてください。そして大人しく、言う通りにするんですよ!!』

『わ、分かったから!』



 懐かしい声。



『はい、これで完成です!』

『う、うぅ……。やっぱり、恥ずかしい……!』

『そんなことないです。エリオさま、やっぱり綺麗です!』



 大好きな彼女の、笑い声。

 目頭が熱くなった。



『そんな、ことない。それを言うなら――』



 素直になれないアタシは、彼女にこう告げる。



『セナだって、可愛いのに……』――と。







「………………」




 エリオは闇の中で目を覚ました。

 懐かしい、願いの欠片を見ていた気がする。これは――。



「セナ、本当に……」



 願ってやまなかった未来。

 ずっと一緒にいたかった一人の少女との、儚い記憶。

 エリオは血の涙を流しながら、無我夢中に、中空へと手を差し伸べた。



「会いたい、会いたいよ。セナ……!」




 すすり泣く声が、響き渡る。

 だが、それを聞く者は誰もいない。



 聞き届ける者は、もう遠くへ行ってしまったのだから。



 


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