3.独特な少女。
……えっと、リィナってこんな感じだったっけ?
「あの、スロバスナさん。久しぶ――」
「あっひゃああああああああああああああああああああああ!?」
「はいぃ!?」
ボクが声をかけると、心底驚いたのか。
リィナはこの世のものとは思えない悲鳴を上げた。
そして椅子の影に、その小さな身体を隠すのである。こそっとこちらを見る黒の瞳には、なぜだろう。光があるようには思えなかった。
「あ、ああああ……」
激しく動揺しているらしい。
リィナは喉を震わせただけのような声を発して、ボクを見据えた。見かねた様子でマリンが仲裁に入ってくれる。
「クレオ、すみません。この子はずいぶんと内気なもので……」
いや、これは内気とかのレベルではない。
内心でツッコミを入れながらも、ボクは口を噤んだ。これ以上、なにかを言って彼女を刺激してはいけない。
なによりも今は有事なのだから。
とにもかくにも、アルナにかけられた呪いを解いてもらわなければ。
「リィナ、こんにちわですわ」
「い、ひひ……? シンデリウスの子?」
「はい、そうです。マリン・シンデリウスですわ」
よく、平然と対話ができるなぁ……。
ボクは感心しながら、会話の行く末を見守った。
「いま、お時間はありまして?」
「だいじょう、ぶ。ちょうど、惚れ薬ができた!」
「あら、そうですの? それはとても嬉しいですわ。でも――」
ちらり、マリンはボクを見て首を左右に振った。
「いまは、それどころではありませんの」
「ひ、ひひ……?」
首を傾げるリィナ。
そんな彼女に、マリンはこう伝えた。
「アルナに、特殊な呪いがかけられました」――と。
◆
「つ、つまり……? このままだと、クレファスくんの身が危険。今すぐに解呪する必要がある、ということか……!」
「話が早くて助かります」
アルナの危機を伝えると、リィナはどこか張り切りだした。
目の色を変えて――とまではいかないが、少なくとも表情は変わった気がする。ただどこかで、クレファスという名を口にするたびにニヤけている感じもした。
その真意が、分からない。
心理学で1位だったアキウスなら、読み解けたかもしれないけど……。
「分かった、クレファスくんのためなら協力する……!」
そう考えていると、リィナは奇妙――もとい、独特な笑いをこぼしながらそう口にした。そして、高く積み上げられた本の中に、腕を突っ込む。
ブツブツと言いながら、ケタケタと笑っていた。
そんな女の子の姿に苦笑いしていると、マリンが声をかけてくる。
「少し変わった子ですが、実力はクレオもご存知と思います。安心して一度、宿へお帰りになってくださいますか?」
「え、良いけど。マリンは残るの?」
「はい。わたくしにも、少しばかり残る理由ができましたから」
「残る、理由……?」
なにか、寒気がした。
それでも今は、マリンの言うことに従った方が良いだろう。
「分かった、それじゃ……」
なので、ボクはそう言ってその場を後にする。
そして宿へと急ぐのだった。




