4.剣術と体術。
決闘が行われるのはギルドの前だ。
そこには多くの民衆が押しかけており、一部ではお祭り騒ぎになっている。聞きかじったところによると、ギルドでの揉め事はこうやって決着をつける、というのが通例らしかった。手荒だな、という感想を抱くのはボクが元々、貴族だったからなのかもしれない。
「逃げずにきてくれたこと、感謝するよ。――クレオくん」
「当然ですよ、エリオさん」
ギルドの前にある円形の広場。
そこに出ると、すでにエリオさんは臨戦態勢に入っていた。剣を抜き放ち、それを日差しにかざして、輝きに目を細めている。
ボクはそんな相手に対して、一つ礼をしてから正面に立つ。
すると、細身の剣士はこう言った。
「ふむ。どうやら、作法を知っているところから見るに、キミも元貴族だった、というところかな? クレオ――名前は聞いたことはないが……」
「ははは、それはお互いに。勝ったら分かることですよ」
「なるほど、な。どうやらキミにも理由というものがあるらしい!」
正面に剣を構え、ニヤリと笑うエリオさん。
綺麗な中性的な顔立ちに、その笑みは映えていた。
ボクはそれに呼応するようにして、剣を抜き放ち構える。仲立ち人であるギルド職員が、それを互いに準備良しと判断したのか、こう宣言した。
「それでは、これより決闘を開始する! ルールは魔法以外ならば何でもアリ! ――それでは、始め!!」
そうして、火蓋は切って落とされる。
最高の剣士を目指す相手との、一騎打ちが始まった。
◆
剣技による実力は伯仲、といったところだった。
あちらが打てば、こちらはそれを防いで反撃をする。それの繰り返し。剣の速度は互いにだんだんと上がっていき、そこで繰り広げられるのは、なかなかにハイレベルなものになっていた。しかし、ボクはこれより速く、強い剣を知っている。
「ずいぶんと余裕がありそうじゃないか、クレオくん」
「いえ、これでも必死ですよ……?」
鍔迫り合いの中。
互いに息がかかりそうな距離感で、ボクたちはそう言葉を交わした。エリオさんもきっと、同じことを感じているのだろう。そう思った。
この人もまた『彼の剣』を知っている。
どうしても越えられなかった壁――それにぶつかった者同士。ボクはこのエリオという人物に、ある種の共感を抱いていた。
「エリオさんの剣技は、とても綺麗です。流れるようでいて柔らかい。しかしそれでいて、同時に決して折れない意思を感じられます」
「それは、ありがたい。我はずいぶんと褒められたことがなかったからな」
「でも、綺麗すぎるんですよ」
「なに……?」
だからこそ、分かる。
これは型にハマりすぎた剣技、だということを。
芸術的であり強い、しかしながら戦いという分野において、それは稀に余分な要素となり得た。つまりはそこに、弱点がある。
「つまり、がら空きなんですよ!」
「が、は……っ!?」
ボクは僅かに空いた隙間から、エリオさんの腹部に蹴りを喰らわせた。
たしかに綺麗な剣技はそれだけで価値がある。しかし、戦いにおいては勝利した者にこそ価値があった。ボクはそれを知っている。
『アルナ』――かつて超えられなかった相手との戦いの中で、いかにすれば、それに勝利することが出来るのかということを。
すなわち、剣術に体術を組み合わせること――!
「く、そ……!」
エリオさんは苦悶の表情を浮かべながら、最小限の動きで剣を振りかぶる。
しかし、そこにもどうしようもなく隙が生まれるのだ。ボクは相手の懐に潜り込んで、今度は肘を捻じ込む。すると骨が軋む感触が伝わってきた。
ここまでくればもう、この戦いの趨勢は決している。
ボクは最後に、自身の剣を振るってエリオさんのそれを弾き飛ばした。
「これで、決着――ですね?」
歓声が沸き起こる。
膝をついたエリオさんは、唖然とこちらを見上げていた。