4.気味の悪い戦い。
通常の剣であれば、クリムの攻撃を完全に弾き切るのは困難だ。
何故ならあの一打一打には、魔力が流れているから。しかもそれだけではなく、その攻撃ごとに流れの方向を変えているのだ。
だから、右へ受け流したはずの攻撃が反対方向に流れたりする。
アルナが対応できなくても、仕方のない話だった。
「やはり、面白いですね。貴方は!」
魔法剣によって、魔力の流れを相殺しながら。
ボクはクリムと相対していた。その最中でも彼女は、嬉しそうにそう叫ぶ。
「人間がここまでの力を持つとは、やはり――」
そして、すっと息を吸ったかと思えば。
「いいえ、今はまだ時ではありませんね」
そう、静かに口にするのだ。
相手の雰囲気がころころと変化するのは、正直やりにくい。それでも、決してついていけない速度ではなかった。
力は互いに拮抗か、あるいはボクの方が上。
あとは、いかにして隙を突いてクリムを出し抜くか――!
「――――!」
それだけ、なのに。
ボクは一度後方へと跳んで、相手から距離を取った。
冷静にならなければならない。戦果を焦っては、負ける戦いだ。深呼吸をしながら、そう自分に言い聞かせる。
クリムはそんなボクを見て、考えを察したらしい。
くくく、と声を発するとゆっくり手を差し出してきた。
「冷静な判断力、果敢な決断力、状況への対応力――人間にしておくのは、実にもったいない。もしお望みになるなら、こちらの世界に案内しますよ?」
「冗談でも、たちが悪いですよ」
「でしょうね。くくく……!」
褒められているのに、なぜだろうか。
素直に受け取ることが、これほどまでにおぞましくおもえたのは。
相手が魔族だから、というだけではなかった。きっとそれは、相手の底が見えない恐怖心が、ボクの中にあったから。
感情に揺さぶりをかけられている。
それに気付いてボクは一度、ゆっくり剣を下ろした。
そして、クリムに訊ねる。
「貴方たちの目的は、なんですか?」
すると彼女は、また小さく笑ってから言うのだった。
「さぁ……? 私はあくまで、契約者に協力しているにすぎませんから」
「………………」
その言葉を聞いて、ボクは再び剣を構えて魔力を流す。
どうやら対話の余地はないらしかった。
だったら――。
「あら、どうやら時間のようですね?」
「え……」
そう思って、足に力を込めた時だ。
クリムはいきなり殺気を消して、そう言った。
「そちらには、怪我人がいるわけですから。今回はここで手打ちとしましょう?」
そして、一方的に宣言すると闇の中に姿を消す。
しかし最後に、彼女はこう言い残した。
「貴方とは、また戦うことになりますね」――と。
気配が消えてから、ボクは剣を下ろした。
そしてアルナのもとに駆け寄って、その傷を癒す。
一つの戦いが終わった。
しかし、どうにも気味が悪く思える。
「それよりも、いまは……」
だけど、いまは魔族よりもエリオさんだ。
ボクはそう思い直して、アルナに肩を貸すのだった。




