2.クレファス家とリーディン家。
――ボクがエリオさんを探しに出ようとしたその時だ。
予想だにしない来客があった。
「……よお、クレオ。少しだけ時間、いいか?」
「アルナ!? そのケガは、いったい……!?」
その人物というのも、ボクの学友であったうちの一人。
彼――アルナ・クレファスは、片足を引きずりながら宿に入ってきた。当然ながら、周囲の視線が彼に集まる。ボクはそれから庇うようにして、アルナに肩を貸した。すると、かつての学友はどこか自嘲気味な笑いを漏らしつつ、こう口にする。
「まったく、クレオには情けないところばかり見られるな……」
「え……?」
「気にすんな。少し、昔を思い出しただけだ」
こちらが首を傾げると、アルナはまた笑った。
そして小さく――。
「ここは人が多すぎる。お前の泊ってる部屋、良いか?」
そう、頼んできた。
ボクは頷いて、彼のことを部屋へと連れていく。
するとそこには異変に気が付いたのだろう、キーンたちがすでに集まっていた。彼らは傷だらけのアルナを見て、どこか難しい表情を浮かべる。
「大丈夫だ、クレオ。ここからは自分で歩ける」
「あ、うん」
それを察してか、アルナは小さく耳打ちをして背筋を伸ばした。
大きく息をついてから、みんなにこう挨拶する。
「俺の名前はアルナ・クレファス。昨晩――」
神妙な声色で。
「エリオ・リーディンの襲撃を受け、退けた者だ」――と。
◆
「クレファス家と、リーディン家の因縁について……?」
ボクの部屋に入って、アルナをベッドに寝かせた時。
彼はおもむろに、そう口にしたのだった。
「あぁ、そうだ。クレオも知っているだろう? 俺の家系――クレファス、そしてリーディンは、長年争い続けてきた、ってことを」
「…………うん」
こちらの問いかけに、天井を見上げながらアルナは答える。
頷き返すと、視線だけで他のみんなを見やってから話し始めた。
「ここにいる全員、無関係じゃない。仲間のことだからな……」
静かな口調で。
どこか、御伽噺を始めるかのように。
「時は今から、千年以上前に遡る。そう――」
とても大切で、非常に根深い因縁の物語を。
「英雄が魔王を打倒した、その時代の話だ」――と。