1.クラディオの過去。
「ディガード……!」
これは、若き日のクラディオの記憶。
彼は一人の男性の前に、膝をついていた。傍らには鍛錬用の木剣が転がっており、それを忌々し気に睨みつける青年であるクラディオ。
そんな彼に、ディガードという青年はこう言った。
「お前の一族の剣には、邪念がある」――と。
すなわち、澄み渡っていないのだ、と。
そのことを指摘されて、若きクラディオは拳を震わせて立ち上がった。そして言葉よりも先に、拳を相手へと向けて放つ。しかし――。
「なぜ止める!」
「学園としても見過ごせない。これ以上は私闘となってしまう」
「くっ、クレファス家の息でもかかったか……!?」
脇に控えていた教員が、クラディオの身体を拘束した。
それに対して、彼は見当違いの怒りをぶちまける。もはやクラディオの思考の中には、クレファス家とリーディン家の因縁しかないのだ。
そのことに、周囲は呆れたようにため息をついた。
それを見て青年は唇を噛む。
自分は間違っていないと、心の正当化を図った。
悪いのはすべて、クレファス。
幼き日から、そう教育を受けてきた。それと同時に、常に自分たちが敗北してきたことも。千年に渡る歴史の中で、勝利を得たことがないことを。
「放せ!」
クラディオは力任せに教員の腕を振り払い、ディガードを睨んだ。
そして、こう告げる。
「いつか、必ず後悔させてやる」――と。
その眼差しには、怨嗟が渦巻いていた。
これはクレオたちが知らない物語。
そして、語るべきではない歴史の一ページだった。