4.リナの記憶、終わり。
「お姉ちゃん! ご飯できたよ!」
その日は突然に訪れた。
すっかり自炊ができるようになったリナ。そんな彼女が、いつものように昼食を作り持ってきた時だった。リビングに姉の姿はなく、どこか閑散としている。
少女は首を傾げて、姉のことを探し始めた。
「お姉ちゃん、どこ……?」
外に出る。
するとそこに立っていたのは姉と、もう一人――。
「だ、れ……?」
黒服の、一言で表せば賊と思える男性だった。
覆面で顔を隠し、得体が知れない。リナはその不気味さに震えた。
しかしセナはどこか悟ったような表情を浮かべて、こちらに歩み寄ってくる。そして、リナの頭を撫でてふっと微笑むのだ。
「私ね、貴族様の家で奉公することになったの」
「え……? どうして、急に?」
「…………」
困惑する妹。
彼女のことを、無言で抱きしめる姉。
何が起きているのかは分からない。だが、お別れのようだった。
「ごめんね、リナ。私、頑張ってくるから……」
「……お姉ちゃん?」
残されたのは、そんな言葉。
意味が分からない。もう、なにもかもが分からなかった。
それでも、大好きな姉が頑張るといっている。それならリナは――。
「――うん! 頑張ってね、お姉ちゃん!!」
笑顔で見送ることにした。
別れは突然に訪れる。意味も分からずに、理由も告げずに。
そして、月日を経て。
リナのもとに帰ってきた姉の姿は、変わり果てたものだった――。
◆
「本当に、それを――セナさんを殺したのがエリオさんだったの……?」
「分かりません。私には、なにも……ただ――」
ボクの言葉に、リナは首を左右に振りながら。
しかし悲しい目をして、言うのだった。
「あの人――エリオさんが、そう言ったんです」
今にも泣きだしそうな声で。
何が正しいのか、何が起きているのか分からないといった風に。
リナは服をきゅっと掴み、唇を噛んだ。そして語るのだ。自分がこの王都を目指したのは、エリオさんがこちらへ向かったと聞いたからだ、と。
そう、姉の仇を討つために――。
それなのに、どうしてこうなったのだろうか。
実際に出会った彼女は親切で、とても優しい女性だった。
「クレオさん、私はどうすれば良いんですか……?」
リナはとうとうボクに答えを求める。
そして、頭の中がぐしゃぐしゃになったのだろう。大粒の涙を流した。
「リナ……」
ボクはそんな少女を見て、
「あれ、待ってよ?」
ふと、気になることがあった。
それはあまりにも単純で、不思議なこと。
「リナは、誰からエリオさんの行方を聞いたの?」――と。
するとリナは、ハッとした。
「そういえば、あの人は――」
そして、その人物の名を口にする。
「クラディオ、と――名乗りました」
「クラディオ……!?」
ボクはその名を聞いて、眉をひそめた。
何故ならその名前には聞き覚えがあったから。その人は――。
「リーディン家、最後の当主……!」
何かが噛み合い始めた。
しかし同時に、一つの因縁が動き始めたように感じられた。




