3.アルナのもとに現れた者。
――夜更けのこと。
アルナは自身の屋敷、その自室で身を休めていた。
ベッドに寝転がり天井を見上げている。久しぶりにクレオと会ったが、相も変わらず自分の価値を理解していない様子だった。
「ホントに間抜けなのか、無欲なのか……」
そう、元学友のことを思う。
彼はやはり彼のまま。そのことに喜びもあったが、ほんの少し残念でもあった。
貴族という枷から放たれて、どのようにしてきたのか。それに興味もあったが、その話はまた次の機会というところだろう。
ひとまず、アルナは身を起こして――。
「それで、誰だ? ――そこにいるのは」
おもむろにそう口を開いた。
静寂の中に、彼の声が広がっていく。
そして、それに呼応するように現れたのは――。
「…………」
黒装束の、男女の区別のできない人物だった。
手に持つのは一本の剣。綺麗な刀身。まだ、誰も斬っていないようだった。
「狙いはオレだけ、ってか」
アルナは枕元に置いてあった護身用の剣を手にする。
抜き放ち、それを構えた。
「面白れぇ、きやがれ!」
邪悪な、悪戯小僧そのものの笑みを浮かべて。
賊に対してアルナはそう叫んだ。
◆◇◆
「あれ、エリオさんは……?」
「クレオさん。そうなんです、エリオさんが見つからなくて……」
一方そのころ。
王都の宿ではクレオとマキ、そしてリナが集っていた。
「…………なんだか、嫌な予感がする」
クレオは窓の外を見て、そう口にする。
そこには、嵐のような雨が降り続けていた。