1.エリオの記憶。
――あの子を手にかけた感触は、今でも鮮明に覚えている。
肉を貫く生々しい音に、心臓を鷲掴みにされたかのような気持ちも。呼吸は止まって、目の前で起きたことを理解するのに時間がかかった。
ガクリ、と身体をこちらに預けた少女。
そんな彼女から出た言葉は、さらにアタシを苛める。
「私は、エリオさまに会えて良かったです」
死の間際に、掠れるような声で少女はそう言ったのだ。
そっとアタシの頬に触れた手は、撫でるようにしてからこぼれ落ちていった。
熱が失われていく。大切な親友の、姉妹だとさえ思った少女から、生気が失われていった。呼応するようにしてアタシの身体からも、熱という熱が消えていく。
――あぁ、覚えている。
忘れるはずが、なかった。
忘れられるはずがなかったのだ。
そう、彼女の名前は――。
◆
「――――――セナ」
エリオが目覚めると、そこにあったのは宿の天井。
そして、何かを掴むようにして彼女は腕を伸ばしていた。口にした少女の影を掴み取ろうとしたかのように。エリオは、ただ手を伸ばしていた。
涙が流れていた。
しかし、彼女はそのことに気付かない。
気づいていても、拭うことさえ忘れていたかもしれない。
「久しぶり、だな。――セナ」
噛みしめるようにして、少女の名を繰り返す。
まるでエリオには、セナという名の女の子の姿が見えているかのようだった。
「貴方の妹に会ったよ。とても明るくて、元気な子だった」
――セナに、そっくりな。
そこまで口にして、口を噤むエリオ。
「アタシはやっぱり、許されない。戦わなければ、ならない」
そして、次に口を開いた時。
エリオの瞳からは感情が消え去っていた。
「アタシは――我は、ただ一つの剣」
身を起こして、窓の外を見る。
一羽の小鳥が羽ばたく。それを、彼女はただただ見送っていた。




