2.隠しごと。
「エリオさん、どうされたんですか? 朝帰りだなんて」
「ああ、いや。少し懐かしい人に会ってね……」
「懐かしい人……?」
翌朝になって、エリオさんは帰ってきた。
ボクが朝のランニングから戻ってきたのとほぼ同時で、思いつめた表情をして。だから何かあったのかと思い、そう訊いてみた。
しかし返ってきたのは苦笑と、それには不釣り合いな言葉。
首を傾げていると、彼女は切り替えるように言った。
「そんなことよりも、クエスト! 今日も稼ぐとしよう!」
「え、あ……はい」
そして、足早にダンジョンの奥へと行ってしまう。
そんな後姿を見送って、ボクは立ち尽くした。すると、
「あれは、何か隠してますね?」
「キーンもそう思う?」
魔法使いの青年が、顎に手を当てつつそう口にする。
意見としてはこちらと同じで、エリオさんが何かしらの悩みを抱えているのだろう、というものだった。もっともそれが何なのかは、分からない。
しかし、直接エリオさんに訊くのもはばかられた。
「仲間ですから。きっと、話してくれますよ」
「そうだと、良いけどね」
そう考えていると、キーンが年長者らしく言う。
だが彼の言葉に頷きながらも、どこか胸騒ぎを覚えてしまった。
そして、次の瞬間だ。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
甲高い、少女の悲鳴が聞こえたのは。
「な、なんですか!?」
「行こう、キーン!!」
ボクの身体は、即座に反応した。
一直線に声のした方へと赴くと、そこにあったのは――。
「クレオ、そっちを頼む!」
エリオさんが数体の魔物を相手にしている姿。
そして、そんな彼女に庇われていたのは。
「ひ、ひぃ……!」
一人の、獣人の女の子だった。
栗色の髪にぴょこんと猫耳が生えている。顔立ちは分からなかったが、この場にいるには相応しくないような小柄な子だ。
武器らしきものは背負っていたが、手に取る余裕はないようだった。
「任せて! キーンは魔法で、マキは支援して!!」
「分かりました!」
「分かったです!」
ボクは指示を出す。
そして、エリオさんの背後から襲い掛かろうとする魔物に剣を突き立てた。




