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万年2位だからと勘当された少年、無自覚に無双する【WEB版】  作者: あざね
特別短編。

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68/211

バレンタイン特別短編。~想いを伝える日~

特別短編です。

気楽にどぞです。






 ――これは本編とあまり関係ありません。

 時系列も特に意識しませんので、気楽にお読みください。



「今年こそ、クレオの心を掴んでみせますわ……!」

「ふえ? どうしたです、マリンさん?」


 ある日の朝。

 シンデリウスの屋敷では、そんなやり取りが行われていた。

 マリンが朝早くから厨房に立ったかと思えば、腕まくりをしながらそう口にしたのだ。朝食を作ろうとしていたマキは、偶然にもそこに居合わせたのである。


「ふ、ふふふっ……! マキ、世間ではこの時期に催される行事がありますの」

「行事、ですか……?」

「えぇ、その名も――」


 ひとまず、トーストを取り出した妹に。

 現当主となったマリンは、力強くこう宣言した。



「恋の主戦場――バレンタインデー、ですわ!」



◆◇◆



「……なるほど。恋する女性が、相手の男性にチョコレートを贈る、と」

「その通りですわ! マキにも、好きな殿方の一人いるでしょう!?」

「ふえぇ、あの……! そ、それは……!」


 一通りの説明を終えて。

 マリンは、マキにそう迫っていた。

 姉の勢いに妹はしどろもどろになりながら、最後には視線を逸らす。


 そして、苦笑いしながら。


「あ、あはは……! お父さんに、あげたいですね!」


 苦肉の策。

 ひとまず無難な選択肢を取った。


「なるほど、ゴウンさんですか。日頃の感謝を伝えるのも、悪くありませんね」

「で、ですよねぇ! 一緒に作ってもいいですか?」

「構いませんわ! 頑張りましょう!」

「あ、あはは……」


 どうやら、上手くごまかせた模様。

 マキは心底安堵し、胸を撫で下ろした。

 だが、ふと思い出してマリンにこう訊ねる。


「クレオさんに、贈られるんですよね?」

「えぇ、もちろんですわ!」


 すると、とにかく意気込んだ返答があった。

 しかしながら、だからこそマキには不安になる要素があった。


「もしかして、クレオさん――」


 そして、思わず口にしてしまった。



「パティシエとしての腕も、凄かったのでは……」――と。



「…………」

「…………」


 舞い降りた沈黙。

 ちなみにマリンは今、チョコレートを溶かそうと『直火』に当てようとしていた。この時点で間違えているのだが、スイーツに携わった経験のない二人は気づかない。それよりも、クレオの方が上手である、という事実が重くのしかかっていた。


「た、たしかに。クレオは調理実習で、いつも……!」


 がくり、なにかを思い出したのか。

 マリンは膝から崩れ落ちた。


「えっと、でも! こういうのは気持ちを贈るものでは!?」

「フ、フォローはいりませんわ……」


 さめざめと泣くマリン。

 必死に呼びかけるマキではあったが、心の折れた聖女を立ち直らせるのは難しかった。もはやここまで、そう思った時だ。


「あん、どうしたんだ二人とも……?」


 何故か、ゴウンがその場に現れたのは。

 彼は調理場に入ってくると、軽く首を傾げるのだった。


「お父さん、その……」

「もしかして、バレンタイン、ってやつか?」

「そうなんですけど、その……。マリンさんが……」


 ゴウンは娘の言葉を聞いて、空気を読んだらしい。

 そして、少し考えてからこう笑った。


「気にすんな! 男は形よりも心がこもったチョコが好きだからな!」

「ゴ、ゴウンさん……!」


 マリンは視線を上げて、伯父の顔を見る。

 それに対して彼はこう告げるのだ。


「なんなら、俺様がチョコの作り方を教えてやるよ!」


 あまりにも意外な申し出。

 しかもどこか自信ありげな表情に、マキとマリンは顔を見合わせた。


「…………え?」

「…………え?」



 そして、声を揃えるのだった。






 ――果たして、バレンタイン当日。



「やはり、クレオは知り合い全員に完成度の高いチョコを……!」

「ですね……。一口食べましたが、ほっぺが落ちるかと……!」


 最愛の相手であり、最大の敵である彼はやはり強かった。

 だが、ここまできて後には引けない。


「おう、お前ら。シャキッとするんだ」

「お父さん……」

「マキ。たしかに、ここまできたら――」


 ゴウンに背を押されて、マリンは一つ深呼吸。

 そして、大きく頷いた。


「わたくし、行ってきますわ!」


 クレオに向かって駆けだす聖女。

 マキはあのように言った手前、クレオには渡せない。

 しかし今の彼女には、それ以上に気になることがあった。


「あの、お父さん?」

「なんだ、マキ」

「お父さんのチョコって、誰にあげるものなのですか?」


 それとは、ゴウンの手にあるチョコレート。

 彼の調理はどこか手慣れていた。もしかしたら、少なくとも数回はこうやってチョコを作ったことがあるような。そんな雰囲気だった。

 その真偽はともかくとして、マキは理由が知りたかった。


「あぁ、そうだな。お前も、来るか?」


 ゴウンはマリンの方へと視線を投げて。

 ふっと、その光景に笑むのだった。


「あの、どこ行くんです?」

「あぁ、それはな――」



 そして、愛娘の問いかけに静かに答える。



「ナキ――お母さんのところ、だよ」



◆◇◆



 バレンタインは、自分の気持ちを大切な者に伝える日。

 感謝であり、恋慕であり、その他にも多くの感情があるだろう。



 とある墓前に、二つのチョコが置かれていた。

 どちらもお世辞に上手とは言えなかった。だが、心のこもった贈り物だ。



『ナキ・オルザール――ここに眠る』



 墓標に刻まれた文字。

 ほんの少しだけ吹いた冷たい風も、どこか優しく感じる。



 こんな日があっても、いいのかもしれない。

 誰かに想いを寄せる一日。




 どうか、多くの人に幸多からんことを祈って……。



 


下記のリンクより新作に飛べますので、応援よろしくお願いいたします。

<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴウンさん良い人過ぎて泣けた。
[一言] なんだ褌贈らないのか(スットボケ
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