2.最高の剣士からの誘い。
それは、ある日のことだ。
久々に休日として、ボクたちパーティーメンバーは各々に外出をしていた。マキはマリンとゴウンさん、二人と食事へ。キーンは勉強があるとか。そしてエリオさんは、王都の外れにある滝の近くで鍛錬をすると言っていた。
「ボクはなにをしようかなぁ……?」
残されたボクは宿の談話室で椅子に腰かけ、ボンヤリと天井を見上げている。
毎日クエストをこなして、それが楽しくて仕方がなかった。だから、一人での余暇の過ごし方というものを考えていなかった。
趣味がないわけではないけれど、かといってという感じもする。
なにか起こらないかな、と。そう考えていた時だった。
「へ……。久しぶりだな、クレオ」
「…………え?」
ボクの名を呼ぶ人があったのは。
その声は、とても馴染み深くて懐かしいもの。
そして学園生時代には、毎日のように聞いていた声だった。
「アルナ……?」
「おう。やっぱり、この宿だったんだな」
ニッと、悪戯っぽい笑みを浮かべた少年――アルナ。
騎士団で支給されている衣服を着崩して、大股でこちらへ歩み寄ってきた。
「どうして、ここに?」
「少しばかり用があってな。隣、いいか?」
「あ、うん。いいよ」
そして、軽く言葉を交わすと隣に座る。
態度は大きく足を組んで、欠伸をしながら身体を後方に反らせた。こういうところは、昔から変わっていない。作法というものに疎い、というよりも興味がないのだ。それでも周囲に受け入れられているのは、それを黙らせる能力と、努力によるもの。
アルナ――ボクが目標とした剣士。
以前とまったく変わらない様子でいる彼に、ボクは自然と頬が緩んだ。
「それで、単刀直入に話してもいいか?」
「ん? どうしたの、アルナ」
そうしていると、不意に少年はそう言った。
どうしたのかと首を傾げると、こちらを見てから彼は微笑んだ。そして――。
「改革は、始まった」
似つかわしくない真剣な声で、こう口にした。
「クレオ――お前に、騎士団の団長になってほしい」――と。
嘘偽りなく。
迷いもなく。
ただ、心から願っているといった風に。
アルナはボクに向かって、そう告げるのだった。
「え……?」
でもボクは、その申し出の意図を理解できない。
どうしてボクなのか、それが分からなかった。
「今までのガリアでは、特出した能力のみを重視してきた。騎士団や王宮魔法使い、それ以外にも色々な部署でその気質があった」
そんなこちらに、アルナは語る。
「でも、それは大きな間違いだ。それでは本当の才能を潰してしまい、画一的な組織しか作りだせない。もっと大きな、それを統括する存在が必要だ」
――だから、と。
彼は、こちらをまっすぐ見つめてこう言った。
「その手始めに、一緒に騎士団を変えてほしいんだ。――クレオ」
曇りなき眼で。
アルナは、そう訴えかけてきた。
「俺が、クレオのことをもっと上に押し上げる」――と。
それは、一つの大きな決断。
降って湧いた、成功への道筋だった。




