2.アルナへの思い。
「はぁ――――――ッ!!」
エリオさんが剣を振るう。
洗練された、という表現が最も正しいと思われる一閃。ダンジョンの最深部付近にいる魔物も、彼女の剣術の前にはなす術もなかった。
肉を切り裂かれた魔物は断末魔の悲鳴を上げる。
魔素へと還ったそれを見て、ボクはひとまず息をついた。
「お疲れ様、エリオさん」
「ん――あぁ、クレオもお疲れさま」
声をかけると、エリオさんは汗を拭いながら笑顔を見せる。
中性的ながらも整ったその顔に浮かぶ、あまりに眩しい表情。出会った頃の思いつめた色は薄れており、純粋な性格が出てきているように思えた。
そのことが垣間見えて、ボクは素直に嬉しくなる。
「それにしても、本当にエリオさんの剣術は素晴らしいですね」
だから、思ったことをそのまま口にした。
すると一瞬だけキョトンとして、彼女は照れたように頬を掻く。
「素晴らしい、か。ありがたいけど、アタシはまだ――」
そして、自嘲気味にそう言った。
ボクはエリオさんの頭の中に浮かんだのが、誰か分かった。
「…………」
それは、世界最高の剣士と名高いアルナ。
彼とは同じ学年だったのだが、一度も剣術で勝つことはできなかった。無軌道とも思える剣筋に、しかし的確な一撃。芸術的と、そう言ったら良いのかもしれない天性のそれは、見る者を魅了し、惹き付け、虜にするものだった。
才能がすべて、ということは思わない。
しかしながらアルナの剣術は、圧倒的な才能を感じさせるのだ。
「ねぇ、エリオさん?」
そしてエリオさんも、その剣を見た一人。
その力の前に心を一度は砕かれ、闇の中を歩いた経験の持ち主だった。
だからこそ、ボクはいまの彼女の胸にある思いを知りたい。そう思った。
「アルナのこと、いまはどう思っていますか?」
こちらから、この話を振るのは初めて。
いいや。もしかしたら、話題として出るのも初めてだった。
「……アルナ、か」
面食らったようにしてから、顎に手を当てて考え込むエリオさん。
数秒の思考の後に、彼女はこう言った。
「いまはもう、比べるのをやめたよ。アタシは、アタシだからね」――と。
そこには、少しだけ遠慮のような。
迷いに近い何かがあるようにも感じられた。
でも剣術に対して、少なくとも以前のような歪んだ感情はもっていない。そのことだけは、ハッキリとする言葉だった。
ボクは安堵して、自然と笑む。
よかった――と。
だって初めて出会った時のエリオさんは、いまにも何かに押しつぶされてしまいそうなほど、追い詰められたような表情をしていたのだから。
「それじゃ、帰りましょうか!」
そのことを確認できたのが、今日の一番の収穫だった。
ボクは一つ頷いてからそう宣言する。
エリオさんの、剣の道。
それはきっとここから、またまっすぐ伸びていくのだろう。
この時のボクは、それを信じて疑わなかった。
そう、あの人が王都にやってくるまでは……。




