1.くすぶり続ける呪い。
『お前のせいで、一族は潰えてしまったのだ』
『お前の責任だ。どうしてくれる』
『お前のせいで……』
――大の大人が、寄ってたかって一人の少女を追い詰める。
その光景は傍から見れば、異様としか言いようがなかっただろう。だがそれでも、少なくとも、その時の彼女にとっては当然の報いであった。
自分のせいで、貴族であった家は没落したのだから。
自分が、あの決闘で敗れたせいで。
自分が、あの決闘で――。
『ごめんなさい、ごめんなさい……!』
ひどい暴力を受け続けた。
我が子とは思っていないに違いない。
父親からも、母親からも見捨てられて、少女はただうずくまっていた。誰も助けてなどくれない。それにこれは、当然の報いなのだから。
だから、仕方がない。
仕方がないのだ。
自分が悪いのだから。
それできっと、みんなが納得するだろう。
『ころ、して……』
ただ、無自覚にそう呟いていたこと。
それ自体を彼女は、自分でも知ることはなかった。
◆◇◆
エリオは宿の一室で目を覚ました。
ずいぶんと、暗い夢を見ていた気がする。
そうでなくては、このような寝汗をかくはずがない。
「あぁ、もうこんな時間か」
身を起こして、彼女はストレッチを開始した。
窓の外には朝日が顔を出している。この時間には決まって、彼女は軽い鍛錬を行うことにしていた。もう何年も前から続けてきた、ルーティン、というやつだ。
やらないと気分が悪い。
そう、自分は強くならないと――。
「…………」
そこまで考えて、エリオは剣に伸ばした手を止めた。
自分はどうして強くなろうとしているのか、ふと考えたのだ。しばしの間、思考を巡らせる。だがそれでも答えは出てこなかった。
「愚問だな。アタシがそうしたいから、に決まっている」
そして、最後にそう結論付けた。
だが彼女は知らなかった。
その結論がいかに、呪われているのか、を。
その呪いが、クレオとの出会いをもってしても解けていないことを……。




